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第46話 魔族令嬢は、多くの愛を感じる

 私の頬を撫でるエドワードが、少し眉を下げて笑った。


「悪魔に連れていかれていたら、今頃、私はこの身を呪っていたよ」

「エド……」

「フェルナンド卿に手紙を出したんだ」

「……お兄様にですか?」

「ああ。もしものことがあるかもしれない。だから、一度アルヴェリオンに来て欲しいと」


 なんてことでしょう。

 亡きお父様に似て厳格なお兄様が、私の体たらくぶりを知ったら、大激怒するに決まっているわ。戦場に立つことのできない私にも、常日頃から「フェルナンドの薔薇として、強くあれ」といっていたお兄様よ。能力を使いこなせず生死を彷徨うなんて、恥晒しも同然。

 絶対、怒ってるに決まっているわ。


 脳裏にお兄様の顔を思い浮かべ、堪らず身震いをする。だけど、そんな私を見たエドワードは、綺麗な瞳を細めて微笑んだ。


「フェルナンドの薔薇は強い。リリアナは愛しい者を置いていくような、薄情な娘ではない。そう書かれていたよ」

「……お兄様が?」

「私の元に必ず戻るだろうから、信じて待てとも書いてあった。……弱気になっていた私を、励まして下さったんだ」


 あのお兄様が、そんな手紙を書いただなんて。少しだけ信じられなくて「読みたいです」というと、エドワードは「後で見せよう」といってくれた。


「元気になったら、一度、デズモンドへ行こう」

「デズモンドへ、ですか?」

「向こうから来るのは、なにかと大変だろう?」


 いわれてみれば、確かにそうかもしれない。フェルナンド家の武力はデズモンドの防衛ラインでも重要だわ。まだ魔物の休眠期に入っていないから、お兄様が国を離れるのは難しいだろう。それに、帰ることができるなら、お母様にもお会いできる。お父様のお墓にも──ハッとした。

 お父様のお墓に行くよりも、まず、向かわなければならないところがあるわ。


「あ、あの……デズモンドへ帰るのもよいのですが、その前に、行きたいところがございます」

「どこだい?」

「……エリザ様のお墓へ、連れていって下さい」


 私のお願いを聞いたエドワードは、少し驚いた顔をした。だけど、すぐに微笑みを浮かべて「わかった」と頷く。

 ほっと安堵すると、身体がずしりと重くなってきた。


「少し……眠くなってきました」

「ああ、話し過ぎたか」

「……手を、離さないでくださいね」

「ああ。ここにいる。起きたら、果物を食べよう。セルダン子爵から見舞いのアンズが届いている」

「セルダン子爵……マリアンヌは、泣いてませんか? それに、クラリッサも……」


 二人には、辛い思いをさせてしまった。

 ああ、それにヴィアトリス王妃はどうなったのかしら?


 瞼が少しずつ重くなっていく。


「大丈夫だ。二人とも、元気だ……元気になったら、その話もしよう」


 エドワードの声が次第に遠のき、優しく「おやすみ」と耳元で囁きがじんわりと広がった。


 ◇


 朝食を終えると、温かな紅茶が用意された。

 薔薇の香りが立ち上がる。エドワードと一緒に行ったパサージュで出会った花の紅茶だ。


「ハースローゼの紅茶ね」

「はい。昨日、サフィアと買いにいってきました」

「……デイジー、この紅茶をクラリッサとマリアンヌへ贈ってくれない?」


 あんなに辛いことがあったんだもの、きっと心穏やかにはいられないだろう。元気になったら、会いに行きたいけど、そう簡単じゃないわよね。だから、せめて贈り物をと思ったのだけど。

 一瞬うろたえた表情を見せたデイジーは、ちらりとエドワードに視線を送る。そうして、彼が頷くのを見ると「かしこまりました」といった。


 なにか余計なことをお願いしてしまったかしら。もしかして、あんなことが起きたから、二人は私のことを思い出すのも辛いのかも……


「二人の子爵令嬢は、領地に戻って療養しているよ」

「……そう、ですよね。あんなに辛いことがあったんですもの」

「しかし、君のことを案じていた」

「私を、ですか?」

「ああ……今回のことだが、王妃は急病で倒れたということになった」


 突然の報告に、返す言葉が思い浮かばないくらいには、驚いた。黙っていると、エドワードは深いため息をつく。


「ベルフィオレ公爵が、二人の子爵令嬢を守らなければならないと嘆願してな」

「……クラリッサとマリアンヌを?」

「ああ。あの時、映像を見ていたのは私たちと兄上の護衛騎士だけだ。衛兵の一部も事の次第を知ったが、現場を見たのは限られた者だ」


 確かにそうだわ。ロベルト王と共に侯爵たちも見ていたから、あの場に駆けつけたけど、ごく限られた者しか見ていない。

 あの記録を大衆に晒せば、ヴィアトリス王妃の罪は確定されるだろう。でもそれは、ドレスを剥ぎ取られそうになったクラリッサとマリアンヌの姿を大勢に晒すことでもある。

 被害者である未婚のお二人を、そのような目に合わせるのは、心苦しいわ。

次回、本日18時頃の更新となります


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