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第41話 魔族令嬢は、再び王妃を問い詰める

「私の話が真実だとして、誰が信じるの?」


 高らかに笑うヴィアトリス王妃は「楽しかったでしょ?」といってディアナを振り返った。

 ディアナは一糸乱れぬ姿で、騎士の腕に抱き締められている。おそらく、彼が思いを寄せている騎士なのだろう。彼女の恋心を王妃は利用していたのだ。


「あなたをバカにする下級の令嬢を陥れ、愛しい騎士の腕に抱かれる。気分がいいでしょ?……そう、私のいうことを聞けば、なにも悪いようにはしないわ。さあ、甘い香に身を委ね、私に忠誠を誓いなさい」


 ディアナの顔が青ざめていく。そのすぐ側、床で身を丸くするクラリッサとマリアンヌも震えながら「お助け下さい」と声を引きつらせた。


「王妃たる私と、下賎な魔族の小娘、どちらの言葉に重みがあるというの? 私の言葉以外、誰も信じやしないわ!」


 その時だった。

 扉が勢いよく開け放たれ、エドワードが姿を現し、「それはもちろん、我が妃だ!」と声を響かせた。


 怒りに満ちた低い声が響き渡った。

 エドワードの後ろから入ってきたのは、ローレンスとベルフィオレ公爵夫人、それにロベルト王と三人の貴族──パスカリス侯爵、ノーブル子爵、セルダン子爵だった。

 

 ジャケットを脱ぎながら近づくエドワードは、私を捕らえていた騎士──ガルエン卿の腕に手をかけた。


「私の妃から手を放せ」


 私の腰にかかっていた腕がびくりと震え、ガルエン卿はなに一つ言葉を発することなく、後ろに下がった。

 突然の解放に、力が抜けてその場に倒れ込みそうになった私を、エドワードはしっかりと抱きとめ、そのジャケットを肩にかけてくれた。そうして、耳元で「よく頑張った」と囁く。


 顔を上げると、ノーブル子爵とセルダン子爵が、真っ青な顔をして娘たちに駆け寄るところだった。彼らは、泣きつく彼女たちを抱きとめ、そのジャケットで覆い隠すと、鋭い眼差しをヴィアトリス王妃へと向けた。


「王妃様、これはどういう事か、お話いただけますか?」


 一歩前に出たパスカリス侯爵が静かに尋ねると、ヴィアトリス王妃はハッとして、ロベルト王をその瞳に写した。

 私の力が解けたのね……


「ど、どうもこうも……陛下、恐ろしゅうございました! リリアナは騎士たちを操り、私を慕って集って下さいました令嬢たちを辱めようと……」



 眉を歪めて涙を浮かべたヴィアトリスは、真っ白なドレスを翻してロベルト王へと駆け寄った。その身体にしなだれ、弱い王妃を演じる。その体を受け止めた陛下の顔は真っ青だった。


「ヴィアトリス……本当のことを話してくれ……」

「私が嘘をつくことなどございましょうか! 色欲でエドワードを騙し、この国を陥れるつもりでございます」


 さめざめと泣く姿に、再び怒りが込み上げた。

 どれだけの嘘を重ねりつもりだろう。そうして、若き芽を摘んでなにになるというの?


「信じてください、陛下」

「ヴィアトリス……私は、そなたを信じたかった」

「……陛下?」


 ロベルト王の頬を涙が伝い落ちた。その直後、緑の瞳がギラリと輝き、ヴィアトリス王妃の手首をねじり上げた。


「そなたの所業、全て見させてもらった」

「陛下、なにをおっしゃっていますの? 私はなにも──!?」


 ヴィアトリス王妃が無実を訴えようとした時だった。

 壁に、醜悪な顔で笑う王妃の姿が映し出された。


『おかしなことをいう。私は真実しか語らない』

『では、お聞きします。なぜ、このような茶会を開かれたのですか?』

『下賎な女どもここへ呼び、魔族の小娘を陥れるため芝居をうつためよ。騎士達をたぶらかし、金を握らせ、女達を手込めにせよと命じた。このような醜態、外に知られでもしたら、嫁ぎ先もなくなろう?』

『そのようにして……エリザ様も陥れたのですね?』

『泣きながら、許しを請う姿は滑稽だったわ。まさか、塔から身を投げるとは思わなかったけど』


 エドワードの手に握られるブローチから溢れ出た輝きが、今しがた交わした会話を、再び繰り返した。

 舞い散る赤い魔力の花びらの中、王妃の高笑いがこだました。


「こ、これは……誤解です、陛下! そうです、これこそが、魔族の仕業にございます。私は騙され」


 往生際の悪いことだ。

 すうっと息を吸い、エドワードのジャケットを握りしめながら立ち上がる。そうして、ロベルト王に懇願するヴィアトリス王妃に「真実を語りなさい」と告げた。


 全身の魔力があふれ出る。風が吹き上げ、赤い花びらが舞い上がった。

 エドワードの手を放し、数歩前に出ると、こちらを見たヴィアトリス王妃の黒い瞳が見開かれ、その赤い唇が震え出した。


「ヴィアトリス、あなたの口で、真実を告げるのです」

「あ、あ……ちがっ……わた、くし……あ、ああっ……」

「さあ、罪を認め、楽になりなさい」


 びっしりと汗をかいたヴィアトリス王妃の額にそっと触れると、断末魔のような叫びが王城を震わせた。それがぴたりと止んだかと思えば、項垂れた王妃は淡々と全てを語り始めた。

残り10話となります。最後までお付き合いよろしくお願いします。

次回、本日13時頃の更新となります


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