第34話 魔族令嬢は、公爵夫人を招いて探りをいれる
夜のお茶会が近づく中、私も出来ることをすることにした。
まず、招かれているパスカリス侯爵、ノーブル子爵、セルダン子爵の令嬢と家柄について調べた。それから、ベルフィオレ公爵夫人を招いて、なにか噂でもないか聞いてみることにした。
私の応接室を訪れたベルフィオレ公爵夫人は、ソファーに腰を下ろすと穏やかに微笑んだ。
さすがは王家を支える公爵家の夫人だわ。その穏やかさには鋭く突き刺す針のような輝きがある。初めて会ったお茶会では気付けなかったけど、あの時も、私が王家に仇なす者ではないか見定めていたかもしれない。きっと、ヴィアトリス王妃のことも、その眼で見てきたに違いない。
「ベルフィオレ公爵夫人、お忙しい中、おいで下さりありがとうございます」
「何を仰いますか。他でもないリリアナ様のお招きですもの、よろこんで参りますわ」
紅茶を入れるデイジーに「ありがとう」といって、にこり微笑んだベルフィオレ公爵夫人は、流れるような仕草でカップを手にした。
「先日のお茶会では、本当にありがとうございました。夫人のお言葉に救われました」
「まあ、それはよかったわ。ヴィアトリス王妃の威光に委縮してしまう令嬢が多くて、心配していたのよ」
「……威光、ですか?」
「ええ。王妃としての輝きは必要だと思いはしますけどね。それで王弟妃が委縮してしまっては、少々都合が悪いでしょ?」
にこりと微笑むベルフィオレ公爵夫人は、ちらりとデイジーとサフィアを見た。さらに私を見ると、笑み一つない真摯な表情へと変わった。侍女二人を前にして、これ以上のことを話していいのかと問うているようだ。
「ベルフィオレ公爵夫人。彼女はデイジー、私と共にデズモンドから来ました。幼い頃から私に仕えてくれています。そして、彼女はサフィア。エリザ様の侍女でしたが、今は私に仕えてくれています」
静かに礼をするデイジーとサフィアを見て、ベルフィオレ公爵夫人に笑みが戻った。
「素敵なお嬢さんたちですこと。日頃はお二人しか側に置いていないのかしら?」
「いつもは、もう少し出入りがありますが、今日は夫人とゆっくりお話がしたくて、人払いをさせて頂きました」
「そう、ありがとう。私も、信頼できる侍女しか連れてこなかったのよ」
カップを置いたベルフィオレ公爵夫人は、控えていた侍女を手招いた。
「アメリアよ。エリザ様の遠縁にあたる伯爵家の娘です」
「──!?」
驚きに目を見開くと、ベルフィオレ公爵夫人は私に肩を寄せ、膝の上で揃えていた手にそっと触れてきた。
「リリアナ様には、エドワード殿下をお支え頂きたいのです」
「もちろん、この先もお支えする心づもりです」
「心強いわ。殿下は、エリザ様のことがあってから、とても慎重になられて……リリアナ様をお迎えするまでは、一切の婚姻をお断りしていたくらいです」
「それは、同じ過ちを繰り返さないようにでしょうか?」
「おそらくは、そうでしょう。ですが、今回はデズモンド国王からの申し入れだと聞きました。ロベルト王も断ることが難しいと仰り、エドワード殿下も覚悟をされたのだと」
「覚悟……」
「ええ。リリアナ様を、お守りする覚悟ですわ」
穏やかに微笑んでいたベルフィオレ公爵夫人は「だから」と呟き、真っ直ぐに私を見つめた。
「ベルフィオレ公爵家も、殿下とリリアナ様をお守りしようと覚悟を決めております。なんなりとお訊きください」
「……ありがとうございます。私は、この国の風習に疎いので、一つ、お教えいただきたいことがございます」
「風習?」
「お茶会のことでございます。デズモンドでは、お茶会は殿方が主に開きます。魔物の侵攻具合や戦場の様子、隣国の動向などの情報交換の場になっています。令嬢が出席する場合もありますが、それは、数が少ないものです。このように、気楽に行うものでもありません」
ベルフィオレ公爵夫人と初めてお会いした時、美味しいお菓子とお茶を楽しむ優雅な催しのように感じた。ヴィアトリス王妃を招いていたこともあり、誰もがドレスアップしていたのも、印象深い。
昼のお茶会だけでも文化の違いを感じたのに、夜の茶会となったら、どうなるのか。そこが私の懸念材料でもあった。
「なので、アルヴェリオンのお茶会についてお聞きしたいんです。それに、王妃様に夜のお茶会に呼ばれて……どういったお話をすればよいのか、戸惑っております」
「夜のお茶会?」
「はい。デズモンドの話を聞きたいと」
ベルフィオレ公爵夫人が少し眉をひそめて「夜にお茶会を開く風習などありませんよ」首を傾げた。
次回、明日8時頃の更新となります
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