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第31話 魔族令嬢の決意は変わらない

 その日の夜、デイジーとサフィアを連れて、約束通りエドワードの部屋を訪れると、ローレンスが出迎えてくれた。

 エドワードはソファーから立ち上がると、私を招いて、柔らかな長椅子へと並んで腰を下ろした。


「リリアナ、気持ちは変わらないか?」

 

 手を握って確認をするエドワードに「もちろんです」と返すと、彼は少し困った顔をして微笑みながら頷いた。まだ、私のことを心配しているのだろう。だけど、その気持ちと同じくらい、私も彼の力になりたい。その気持ちはなに一つ変わらない。


「大丈夫。きっと、上手くやるわ」

「……わかった。──ローレンス、あれを」


 諦めたように笑ったエドワードが支持をすると、ローレンスはテーブルに丸めた大きな紙を広げた。城の見取り図だ。


「王妃の私室は、私たちの部屋とは別棟にある。だが、作りはそう変わらず、国王の部屋と扉で繋がっている」


 エドワードが指し示した箇所を目で追いそのすぐ横を見た。

 確かに、私と彼の部屋と似た作りで、寝室が扉で繋がっている。ヴィアトリス王妃の部屋は、入ってすぐが応接室で、その先に私室、寝室がある。国王の寝室と反対にある小部屋は、衣装がしまってあるワードロープだろう。


「寝室を繋ぐ扉の鍵は、王と王妃しか持っていない」

「それも、私たちと同じなのね。隠し扉はあるのかしら?」

「王妃の部屋にはない」

「そう……だいたいの見取り図はわかったわ」 


 部屋に入れば、当然だが逃げ場がなくなりそうね。ロベルト王がこちらの味方になってくれれば、話は別だけど。

 ワードロープにヴィアトリス王妃の息がかかった者が潜んでいる可能性もあるし、応接室の横にある侍女たちの控室だって危ないわ。万が一の逃走経路を確保するのは難しいかもしれない。どうしたらいいか……


「兄上を説得する」

「……え?」

「私たちは、兄上の部屋で待機する。そうすれば、君の引き出した情報をすぐさま兄上に見せることができるだろう。それに、万が一の時はすぐ駆け付けることができる」


 エドワードの指が、寝室を繋ぐ扉をあたりをコンコンっと叩いた。


「そう簡単に、ロベルト王が協力してくれるかしら?」

「上手くやるから、任せてほしい」

「……エドがそういうのなら」


 初めてロベルト王に会った日のことを思い出す。覇気のないお顔だった。あの姿だけでも、ヴィアトリス王妃の傀儡だといわれたら、頷けてしまう。


「兄上は本来、とても責任感の強いお方だ。今は王妃のことを信じ切っているが……そこを上手く使えば良い」

「どういうこと?」

「夜の茶会の実態を、兄上は全く知らない。問題だろう?」

「それは、大問題だわ……ロベルト王は確かめもしないのですか?」

「ああ。今の兄上は、判断力が低下しているからな。王妃のいうがままだ。だから、こちらもそこを利用する」


 真剣な眼差しのエドワードは深く息を吸った。

 兄を利用する。──自分の身に置き換えたら、そんな大それたことを考えるのも恐ろしいわ。もしも騙したとバレたなら、どうなってしまうか。


 頭の片隅に、お兄様の顔を思い浮かべた。温厚だけど、裏切りをよしとしない私のお兄様は、怒らせたらとてつもなく恐ろしい。敵になど回したくないわ。

 膝の上で拳を握りしめると、エドワードはその上からそっと撫でてくれた。


「どのように、ロベルト王へお話するのですか?」

「そうだな……王妃が兄上を喜ばそうとパーティーを開こうとしているようです。しかし、国王が中身を知らないのは問題。諸侯に示しがつかないので、秘密裏に確認をした上で、王妃を労って下さい……とでもいえば、乗ってくるだろう。兄上は、国王であることをお忘れではない」


 なるほど、嘘をついてはいないわ。

 それであれば、王妃を疑うのかと跳ね除けられることもないだろう。それに合わせて、私はパーティー開催の相談に行くという体でいればいいわけだ。であれば──


「私も、ヴィアトリス王妃に一つ嘘をつきましょう」


次回、明日8時頃の更新となります


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