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第27話 魔族令嬢と王弟殿下は、王妃を追い詰めたい

 美しい庭の中、ヴィアトリス王妃の視線が冷たく刺さるようだった。


 何を話したらいいのか。どうすれば、ヴィアトリス王妃から話を聞き出すことができる?

 少しでも、彼女の本性が知れたらいいのに。話題を模索して俯いていると、ヴィアトリス王妃が気さくに話を振ってきた。


「リリアナのドレスは、どこで仕立てたのかしら? デズモンドから持ってらしたの?」

「いいえ、今日のはアルヴェリオンの仕立て屋に頼んだものです。デズモンドから持ってきた物もありますが」


 ちらりとエドワードを見ると、彼は笑顔で「私の趣味ですよ」といった。


「あら、エドワードの趣味だったのね」

「リリアナの持ってきたドレスも重厚で美しいのですが、こちらの方が愛らしい顔がよく映える」

「それに、重厚なドレスは王妃様が好まれておいでだ。その横でリリアナを輝かせるには、こちらの方がよいかと」

「まあ、そんなことを考えていたの? 私とお揃いで姉妹のようにドレスを着てもよいのよ。ねえ、リリアナ?」


 扇子で口元を隠した王妃は目を細めた。声だけは笑っているように聞こえる。でも、その扇子の向こうではどんな顔をしているのか。

 想像すると背中が冷えた。


「恐れ多いです、王妃様」

「ふふっ、リリアナも謙虚ですこと」


 ヴィアトリス王妃の言葉にどきりとした。

 優しい言葉をかけてエリザ様にも近づいたのだろうか。心配を装い、手招き、どうやってエリザ様を死に追いやったのかしら。

 背中を汗が伝っていく。

 どう会話を続けるのか正解がわからない。ヴィアトリス王妃の機嫌を取るのがいいのか、このまま気弱な風を装うのか。目まぐるしく考えていると、王妃の扇子がパチンとなった。


「リリアナ、今度、私の部屋へいらっしゃい。ゆっくりお話がしたいわ」

「……お気遣い、ありがとうございます、王妃様」

「殿方がいては話せないこともあるでしょからね」

「私を除け者にするおつもりですか?」

「貴方がいては、リリアナが素直になってくれそうにないですからね。女でないとわからないこともあるのですよ」


 赤い唇に笑みを浮かべ、ヴィアトリス王妃は「今日は失礼するわ」といってドレスを翻し、去っていった。


 王妃の姿が見えなくなると、身体から力が抜けてその場にしゃがみ込んでしまった。


「大丈夫かい?」

「……エドワード様、王妃様を挑発しすぎですわ」

「そう感じたなら、成功かな」


 王妃の去っていった方角に厳しい眼差しを向けたエドワードは、ふっとため息をこぼすと、私の前に腰を落とした。


「成功?」

「王妃は私とデズモンドとの繋がりを警戒している筈だ。私とリリアナが仲がいいとわかれば、君から情報を引き出すため、近づこうとするだろう……」


 なるほど、可能性はあるわね。

 エリザ様も王妃の招待を受けてから、命を落としたんだもの。出来れば、同じ状況を作った方が、都合がいいかもしれない。


 エドワードの手に引かれてベンチに戻りと、彼は胸に私を引き寄せた。


「本音をいえば、君を王妃から引き離したいのだが」

「そんなことでは、ヴィアトリス王妃を追い詰めることなどできません」

「わかっている。……リリアナ、君は賢い。だから、王妃の言葉に惑わされることはないだろう。しかし、彼女が何を隠し持っているかは、わからない」

「そうですね。得たいの知れないなにかを感じます。ですが、いざとなったら……」


 ブローチに触れ、そっとエドワードを見上げる。


「私の全能力を使い、追い詰めてみせますわ」

「全能力?」

「魔族は、特別な力を一つ授かるんです」


 私の授かった力は万能ではないけど、ヴィアトリス王妃の本心を引き出すことは可能だわ。問題は、どう舞台を整えるか。


「……リリアナ、その能力を私に教えてはくれないのか? まさか、話したら使えなくなるとか?」

「そんなことはありませんが……」


 きょろきょろと周囲を見渡す。

 私たちの他は、信用のおける騎士とデイジーだけだ。ここで話しても問題ないようにも思えるけど、万が一、ヴィアトリス王妃に知られたら厄介よね。


 少し考え、エドワードを見て「お耳を」というと、彼はそっとかがんでくれた。その耳元で囁くと、彼は目を見開いて「なるほど」と呟く。


「色々と制約もありますが、きっと、お役に立てますわ」

「……無茶だけはしないでくれよ」

 

 眉を少しひそめ、エドワードは私を抱きしめた。

次回、本日18時頃の更新となります


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