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第23話 魔族令嬢は、王弟殿下とお茶を楽しむ

 城に戻ってから、初めてのお茶会を開催する準備が進められた。開催の名目は、私たちの結婚お披露目を行う夜会の前に、エドワードと親しい諸侯の令嬢と仲良くなるためだ。


「案内状、エドワード様が出されたのですか!?」

「リリアナ、そう声を荒げるのは、はしたないよ」

 

 お茶会の練習と称した午後のティータイムで、カップを持ったまま叫ぶ私を、エドワードが笑顔で窘めた。


「今回は大した人数でもないからね。リリアナは、ダンスに妃教育にと忙しいだろう?」

「エドワード様も、執務がお忙しいではありませんか」

「そうだが、今回は私が君を紹介するという体にしたからな」

「……次は、私が案内状を出します」

「ははっ、頼むよ」


 笑って誤魔化すエドワードは、ふと扉の方へと視線を向けた。その直後、扉がノックされてフィアが数名の侍女を連れてきた。


「リリアナ様、ドレスをお持ちしました」

「ドレス?」


 なんの話かわからずに首を傾げていると、ポットを持つデイジーが「私が頼んだんです!」と笑顔でいった。


 トルソーに、とても華やかなドレスが次々とかけられていく。

 薔薇の花のように幾重にも裾を重ねたピンクのドレス、白いカラーのようなタイトなドレス、小花が集まるハイドレンジアのように淡い紫のドレス。どれも、ガラスビーズが輝き王弟の妃に相応しいものだろう。だけど、どうして当然?

 首を傾げていると、デイジーがピンクのドレスの前で立ち止まった。


「どれも素敵ですが、お茶会にはこのくらい可愛らしいデザインが良いかもしれませんね」

「私もそう思います。夜会でしたら、こちらの白も良いかと思いますが、少々露出が増えるのが気がかりです」

「あまり、肌を露出するのは、私も好まぬぞ」


 真剣な顔をして話すデイジーとサフィアに、エドワードが声をかける。どうして、彼まで当然のように話をしているのか、全く理解できない私は蚊帳の外だ。


「お茶会のドレス? なにをいってるの、デイジー?」

「リリアナ様、ヴィアトリス王妃がいらっしゃるのですから、負けないようにいたしませんと!」

「負けないって……お茶会でしょ?」


 そもそも、ドレスで競ってなにになるというのか。お茶会だって、ヴィアトリス王妃に近づいて探りを入れるのが目的な訳だし、ドレスで勝った負けたと騒いでる場合じゃないと思うんだけど。

 全く要領を得ない私に、サフィアが優しく声をかけてくれた。


「リリアナ様。王妃様は、大変派手好きでございます。特に、派手なご令嬢を近くに置いています」


 いわれてみれば、確かに。

 初めて会った時のお姿もずいぶんと王妃然とした豪華な衣装だったわ。あれは、王妃としての威厳を保つためではなく、元からの好みということかしら。


「あまりにも貧相なお姿ですと、笑いものにされるので、王妃様が出席されるお茶会では、皆様、こぞってドレスアップをされます」

「……そうなのね」

「ですから! リリアナ様には、エドワード様の薔薇として、存分にその美貌を見せつけて頂きたく思います。そのためのドレスです!」


 妙なスイッチが入ってしまっているデイジーに、つい笑ってしまった。


「でも、あまり派手になって王妃様より目立っては、気分を害されるかもしれないわよ」

「なにを仰いますか。エドワード様主催のお茶会となれば、リリアナ様は主役でございますよ!」

「そう、なのかしら? でも……」


 譲る様子のないデイジーに困り果て、エドワードをちらりと見れば、彼は肩を震わせて笑ったいた。


「エドワード様、笑っていないで、デイジーたちを止めてください」

「いやいや。主思いのいい侍女たちではないか。まあ、派手すぎるのは問題かもしれないが……そのピンクのドレスであれば、私の贈ったブローチも合うだろう。他の装飾品を少し控えるようにしたらいいんじゃないか?」


 エドワードの言葉に、デイジーとサフィアの顔がパッと華やいだ。

 彼がそういうなら、仕方ないわね。

 胸に留めているブローチにそっと触れ、ピンクのドレスを見る。確かに、あれならエドワードの薔薇として申し分なさそうだわ。

 ドレスを見つめていると、サフィアが私を呼んだ。


「リリアナ様、今から御試着されますか?」

「え、でも……」


 ちらりとエドワードを見て、ちょっと首を傾げた。彼とのお茶会中に、それはどうなのかしら。

 私の心中を察したのか、カップを受け皿に置いたエドワードは「着替えておいで」といってくれた。その言葉に甘えて、私はデイジーとサフィアと一緒に、奥の部屋へと入った。


 ドレスを着替え、ウエストのリボンを締めながら、サフィアが静かな声で私に話しかけてきた。


「リリアナ様、王妃様はとても狡猾な方です」

「……サフィアは、エリザ様の侍女だったのよね? ヴィアトリス王妃と話すこともあったの?」

「直接お話することはありませんでした。ですが、エリザ様が王妃様は狡猾で恐ろしい方だと仰っていました」


 裾の長さを確認するサフィアが顔を上げた。


「リリアナ様……お気を付けください。私も、お側を離れないようにしますが、どうぞ、無理をなさらずに」

「ありがとう。今回は、エドワード様もお側にいてくださるし、大丈夫よ」

「私も側にいます!」

「ええ、デイジーのことも頼りにしているわ」


 胸元にブローチを留めてくれたデイジーに微笑み、サフィアにも視線を送る。


「二人がいてくれるから、私も頑張れるわ」


 胸元で手を握ると、デイジーとサフィアは顔を見合わせた。そうして、同時にこちらを向いて嬉しそうに笑った。

次回、本日20時頃の更新となります


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