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第17話 王弟殿下は、魔族令嬢の幸せを願う(エドワードside)

 城に戻り、リリアナの部屋の前で、彼女の柔らかな髪をそっと撫でた。


「今日は疲れただろう?」

「でも、楽しかったです」

「それはよかった」

「……その、また連れていって下さるんです、よね?」

「ああ。次は髪飾りを探しに行こう」


 リリアナは胸元のブローチに触れ、少し頬を染めて微笑んだ。今日のことを思い返してくれてるのだろうか。

 白い頬に触れると、リリアナは驚いた顔で私を見上げた。唇に触れたい衝動を抑え、頬に降れていた手で彼女の手をとり、その甲に口付ける。


「おやすみ」

「……おやすみなさい」


 扉を閉じたリリアナが、少しだけ寂しそうに微笑んだように見えた。名残惜しいと思ってくれているのか。そうであれば嬉しいが。


 戻った自室で一人になり、ほっと息をつく。ソファーに腰を下ろすと心地よい倦怠感が襲ってきた。


 胸のブローチに手を触れ、天井を見上げて今日のことを思い出す。

 小さなトラブルはあったものの、大事にならずによかった。間者でも紛れ込ませているかと思ったが、考えすぎだったか。


 外したブローチをそっと握りしめ、リリアナの姿を思い出した。

 いつもの凛々しい立ち姿と異なる愛らしいドレスは、エリザがよく着ていたものだった。あの姿で泣かれた時は、「リリアナを不幸にしないで」と責める幻影さえ見えた。


「不幸になどするものか」


 同じ過ちは繰り返さない。そうエリザの墓に誓い、リリアナをこの城に迎えたんだ。

 始めこそ義務感だった。エリザへの償いのように思っていた。だが、今はそれだけではない。


 国を出て不安だろう、リリアナ。なのに彼女は一つも不平不満をいわない。なんて強情なんだと思いもした。だが、私の顔に泥を塗るわけにいかないと、慣れない習慣に全力で向き合う姿が、輝く薔薇のように見えるようになった。

 リリアナを愛おしいと思うのに時間はかからなかった。


 そんなリリアナが、パサージュで涙を見せたのだ。初めて、私に弱さを見せてくれた。

 

 デズモンドとアルヴェリオンの違いに戸惑い、思うことがたくさんあるのだろう。旅芸人の歌一つで、あれほど感情を揺さぶられるほど、私の知らないところで、気を張って過ごしているのかもしれない。

 私を真っすぐ見つめるラピスラズリの瞳を思い出すと、切なさに胸が締め付けられた。


 ふと、エリザの幻影が「ちゃんとリリアナを見てますか?」と問うてきた。

 手の中にあるブローチに視線を落とす。

 

「……大丈夫だ。リリアナから、目を逸らさないよ」


 私に都合のよい幻影が笑った気がした。

 そうだ。彼女を見守り続ける。必ず幸せにする。争いごとのない日々を、リリアナに贈ろう。それが夫としての務めでもある。


 しかし、この城には悪魔がいる。

 脳裏に冷ややかな黒い瞳がちらついた。それと、時を重ねるごとに覇気が失われる兄の姿を思いだし、悪い予感が背筋を震わせる。


 視線を移した窓の向こう、闇夜にリリアナが傷つけられ、冷たい言葉を浴びせられる姿が浮かぶ。そんなことはさせない。彼女の瞳を曇らせてなるものか。


 それに、今度は髪飾りを探しに行こうと約束したんだ。その約束を果たす頃には、悪魔を引きずり出して罪を暴きたいものだが──ぼんやり考えっていると、ブローチが輝いた。


 さっそく、リリアナが使ったのだろう。それを手に取り指でそっと触れると、柔らかな光が浮かびあがった。

 デイジーの顔が映り、「ここを押すのよね?」と愛らしい声が聞こえてきた。


「リリアナ様、そっちは記録する時のですよ! 逆です!」

「え? じゃあ、これかしら?」

「それは記録を消すボタンですよ! こっちです」


 賑やかなやり取りが聞こえてきたかと思えば、光が消えた。どうやら、間違って記録したようだ。

 声しか聞こえなかったが、それがかえってリリアナの姿を鮮明に思い起こさせた。


 リリアナは困惑した時、少し眉を顰める。私と話す時も、一生懸命に話を飲み込もうと考えるのだろう。小さな唇をきゅっと引き結んで悩む表情もまた可愛いものだ。

 きっと、そんな顔をしてブローチの使い方を、デイジーと一緒に復習していたのだろうか。


「本当に、可愛い……」


 馬車の中でブローチを大切に握ったリリアナは、私の好きなものを見たいといっていた。真っすぐ見つめてくるラピスラズリの瞳が、好奇心に輝いていた。その瞳を、その表情を宝石に閉じ込めてしまいたかった。

 

 出来ることならリリアナの表情を全てここに収めたい。毅然とした姿や愛らしい微笑みだけではない。憂いや悲しみも、全てだ。

 しかし、彼女の前でブローチを作動させたら、可愛い顔で「なにを撮られているのですか?」と詰め寄られそうだな。泣き顔なんて撮るものなら、今すぐ消してと怒られるかもしれない。


 その表情を想像して、少しおかしくなった。

 可愛らしいリリアナのことを想像すると、心が軽くなる。ああ、私の横でずっと笑っていて欲しい。


 その為にも、あの女の尻尾を掴まなければ──扉がノックされ、思考が途切れた。

次回、本日8時頃の更新となります


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