表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/50

第14話 魔族令嬢は、二つの国を思う

 エドワードの真剣な瞳に、私が映っていた。


「どうしたんだい、急に?」

「……魔物を食い止める魔族を恐れる人族もいると聞いております。我らも、戦闘力は人に劣らぬと自負しています」


 だからこそ、アルヴェリオンを落とせという過激派がいる。それを、魔王様は良しとしないから、こうして和平条約を維持されているのだろうけど。その本心を知る者は誰もいない。


 膝の上で手を握りしめ、言葉を探した。

 今、私はフェルナンドの薔薇として、あるまじきことを話そうとしている。こんなことを話していると、魔王様が知ったら裏切りと思われるかもしれない。でも、私は──


「でも、劣らないのはそこだけです。きっと、英知は人族にこそあるのだと……この輝く街並みを見て、敗北感すら感じています。いつか、デズモンドはなくなるのではないかとすら。そんなこと、思ってはいけないのに」


 声が震えた。

 魔王様はお強い。騎士たちも精鋭ぞろいだ。だからこそ、魔物の脅威を前にしながら国が成り立っている。でも、こうして穏やかな街を見て、アルヴェリオンを知っていくと、不安になる。

 アルヴェリオンに嫁いだけど、エドワードが大切に思ってくれているのはわかるけど、私の心はまだデズモンドを離れられないんだわ。過酷な国でも、あそこが私の生まれ故郷だもの。


「リリアナ。私は、デズモンドを恐ろしいとは思っていない。むしろ、頼もしいと思っている」

「……頼もしい?」

「英知だけではどうにもならないこともある。力と英知、お互いを補えたら素晴らしいとは思わないかい?」


 強く握りしめていた拳に、そっとエドワードが手を重ねた。


「優劣などつけなくていいんだ。私とリリアナが共に歩くように、アルヴェリオンとデズモンドも手を取り合っていけばいい。そう思っているよ」

「……エドワード様」

「とはいえ、私は王弟でしかないから、兄上の考え次第ではあるが……和平条約を反故にするような人ではないよ。心配することはない」


 その言葉を信じていいのか。いいえ、私は信じるしかないのだろう。

 エドワードの手を握ると、温かな声が「大丈夫だ」と耳に響いた。


「リリアナは、デズモンドを愛しているんだね」

「……そうなのでしょうか?」

「国を憂いるということは、そういうことだ。いつか、同じようにアルヴェリオンも愛して欲しい」

「アルヴェリオンも……」


 予想外な言葉に、ただただ驚いて目を見開いた。

 そうか。私は嫁いできたんだもの……そうよね。これからはアルヴェリオンで生きるのだから、デズモンドと同じくらい、未来を考えなければならないんだわ。


「……そうですよね。両国とも幸せにならないと」

「そのための和平条約だ。私たちで、両国を残していくんだよ」


 私たちでという言葉が、胸に響く。握り合う手を見つめ、心が穏やかになっていくのを感じた。


「エドワード様……私は、すぐ考え込んでしまいます。デズモンドのこと、私自身のこと……そのたびに、こうしてご迷惑をおかけすると思いますが──」

「迷惑なんてことはないよ」

「……そうでしょうか?」

「ああ、君の素直な気持ちを、これからも教えてほしい。私たちは、お互いなにも知らないのだから」


 お互いになにも知らない。本当にそうだ。私だって、エドワードのことをなにも知らない。

 エドワードの手を少し強く握りしめると、若葉色の瞳が少し見開かれた。


「では、エドワード様も、私になんでもお話しください。お気持ちが知りたいです」

「──ははっ、そうだな。少しずつ、お互いを知っていこう」


 私を見つめる瞳が少し切なそうに細められた。

 もしかして、エリザ様のことを思い出されて……彼女はまだ、エドワードの心にいらっしゃるのかもしれない。


 ほんの少し寂しく感じつつ、そこに彼の優しいぬくもりも感じる。

 

「リリアナ、見てごらん」


 促されて外を見ると、見覚えのある通りに差し掛かった。職人通りだ。


「君を連れて行きたい場所が、もう一カ所あるんだ」

「……私を?」 

「気に入ってくれたら嬉しいんだけど」


 エドワードがそういうのと、馬車が止まるのはほぼ同じだった。

 手を引かれて降りた先にあったのは銀細工の工房。パサージュへ向かう際、馬車の中から見て気になっていた場所だわ。

次回、本日20時頃の更新となります


続きが気になる方はブックマークや、ページ下の☆☆☆☆☆で応援いただけますと嬉しいです。

↓↓応援よろしくお願いします!↓↓

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ