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第12話 魔族令嬢は、パサージュ散策を楽しむ

 すっかり落ち着きを取り戻し、カフェを後にしようとしたとき、ダリアさんが「リリアナ様」と私を呼んだ。


「ぼっちゃまを、よろしくお願いします。しっかり者ではありますが、少々ご自身に厳しいところがありますので」


 そういいながら、紙の包みを差し出す。


「これは……?」

「今日お出しした、薔薇の茶葉です。お城で、ぼっちゃまと飲んでください」

「そんな、たくさんご迷惑をおかけしたのに……」

「お気に召して頂けたら、ぜひお茶会で使って下さい」

「それはいいな。夜会の前に小さな茶会を開いて、リリアナを紹介しよう」

「お茶会……ですか?」


 ダリアさんとエドワードを交互に見ると、二人ににこりと微笑まれた。

 デズモンドでお茶会といえば、魔物の侵攻や他国の情勢を探る場だった。結婚相手を紹介するような場ではなかったわ。アルヴェリオンでは、そうじゃないのかしら。 


「実は、ヴィアトリス王妃からも、茶会を開かないのかと何度も訊かれていてな……」

「王妃様が?」

「華やかなことが好きな人だからな」

「……お茶会とは、華やかなのですね」


 やはり、私が知るお茶会とは違うみたいね。こちらの風習に馴染めるように、サフィアに教わらなければいけないわね。

 手の中にある紙の包みを見つめていると、エドワードが私の肩を抱いて「心配することはない」といった。

 顔を上げると、太陽のように眩しい笑顔があった。


 私が不安に思ってると感じたのかしら。 さっき、心を乱して涙を見せたから、心配をかけすぎたのね。

  

「エドワード様がいてくだされば、大丈夫です」


 少しだけ微笑むと、エドワードは目を見開いて固まった。気のせいか、その頬が少し赤く見える。


「ふふっ、仲がよろしいことですわ」

「仲が……はい。エドワード様にはとてもよくして頂いています」

「──!? リっ、リリアナ……そろそろ、行こうか。まだ案内したいところがあるからな」


 どうしてか焦りを見せたエドワードの顔は、ますます赤くなっている。私が首を傾げている側で、ダリアさんが「まあまあ」と小さく笑っていた。


 ダリアさんに送られ、メイン通りに戻った。

 私の手はエドワードに、しっかり握られている。手を引かれて石畳を歩きながら、並ぶ店舗を眺め、時に足を止めた。


「ここは本屋ですか?」

「本と絵画の店だな」

「……肖像画でございますか? お屋敷に画家を招いて描かせるのではなく、ここで絵を買うのですか?」

「肖像画もあるが、風景画や宗教画、歴史画。ここでは、若い画家の絵を売っているんだ」

「旦那様も、ここで買われたことがあるのですか?」


 何気なく尋ねると、エドワードは私の耳に唇を寄せた。こそこそと小声で「私は美術に疎くて……正直、なにを買えばよいのやら」というと、手に持っていた小さな額縁を元の場所に戻した。


「まあ……私もよくわかりません」


 二人で顔を見合わせ、笑ながら店の前を通り過ぎた。その後は、リボンや刺繍、スカーフを売るお店をすぎ、花屋、雑貨屋──たくさんのお店を巡った。

 お客さんで賑わっている店もあれば、ひっそりとしている店もある。閉店と書かれた札がかかる店もあった。


「ここは帽子屋ですか?」

「そうだな……丁度いい、新しい帽子を買おうか」

「……え?」

「この帽子は、だいぶ日に焼けている。せっかくだ、買っていこう」

「で、でも……」

「ほら、これなんてどうだ?」


 エドワードは、愛らしい黄色い花があしらわれた帽子を手に取り、私を振り返る。


「リリアナ?」

「……私には、そのように可愛らしい帽子は似合いません」

「そんなことはない。今日のドレスも──」


 いいかけたエドワードが、ハッとして「ああ」と呟く。

 今着ているドレスが、私のものではないと気付いたのだろう。

 せっかく買って頂いても、このドレスに合わせて買ったら、二度とその帽子は身につけられない。


「飾るために買うのはもったいないです」


 いいながら、胸がチクリと痛む。

 せっかくエドワードが選んでくれた帽子。本当なら喜んで身につけたい。だけど、そんなワガママをいうわけにはいかない。私は、贅沢をするために彼に嫁いだわけではないのだから。


「それなら……この帽子にあった、新しいドレスを買おう」

「──!?」


 突然のことに驚いて顔を上げると、楽しそうな顔をしたエドワードは、私の顎下で結ばれるリボンを解いた。

 日に焼けた帽子の代わり、可愛らしい帽子が頭にのせられる。


「いつもの赤い薔薇の髪飾りも素敵だが、これもとても似合う」

「で、ですが……」

「気に入らないかい?」

「そんなことはありません!……とても、可愛らしくて」


 まさか、こんな愛らしい帽子を買ってもらえるなんて思ってもいなかったから、嬉しいやら、恥ずかしいやらで鼓動が忙しなかった。

 頬にとどまらず、耳まで熱い。

 嬉しくて「気に入りました」と小声で伝えると、エドワードは「店主!」と、様子をうかがっていた男性に声をかけた。

次回、本日17時頃の更新となります


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