044.生まれた白いモノ
2話目ですノ
「……あったかい?」
と言うことは、生きてる卵なのこれは?
ひんやりと冷たいものかと思ってた卵は人肌くらいな温度を持っていた。
そろーっと持ち上げてみれば、重みがあるが予想してたほどじゃないね。感覚的に2キロくらいの重さかな。ダチョウやペンギンの卵なんかはもっと重たいって聞いたことある気がするけども。
「何が中にいるんだろ?」
爬虫類鳥類、もしくは稀に哺乳類?
けれど、ここは地球であるようで地球とも違う異世界の黑の世界。
ファンタジック満載の世界なんだから、後ろの方にいるディシャスみたいな竜だったりして……たしか、ちっちゃな竜はネティアって言うんだっけか。
「ぎゅぅるぅ」
「わっ、とと」
いきなりディシャスが僕の後ろからにょきと顔を出してきて鼻で頰ずりしてきた。
不意打ちだったもんだから危うく卵を落とすかと思ったよ。なんとか抱き込んで事なきを得たけどさ。
「こら、ディシャス。卵落としたら大変じゃないか」
「ぎゅぅ……」
めっ、とディシャスの方を向いて注意する。
そしたら、しおしおと眉毛はないけど瞼をへにょりと俯かせた。
わかったなら、よろしい。
パキッ。
「ぎゅ?」
「ん?」
今なんか音しなかった?
まさかと腕の中の卵に目を落とすとてっぺんの部分にヒビが入っていた。
(なんで割れそうになってるんだ⁉︎)
あわあわと口をパカパカさせてる間にも亀裂はどんどん伸びていき、パキッパキッっと音は大きくなっていく。
「ぎゅっぎゅー!」
なのに、こっちの竜さんは嬉しそうに声を上げてるだけだった。
え、緊急事態じゃないの?
バキィ!
一際大きな音を立てると、卵の上部分の亀裂が大きくなった。
そして、もぞもぞと中から何かが卵の殻を外そうと動く感じが見えた。
「う、生まれる?」
「ぎゅっ」
そうだねー、ってな具合にディシャスはのんびりと相槌してくれた。
けれど、中のモノは殻が重いのか窮屈で動きにくいのかもぞもぞしているだけ。
これは手伝った方がいいかなと、僕はゆっくりと地面に降ろしてから卵の殻に手を掛けた。
「んんーーーっしょっと!」
中々に中のとぴったり合わさっていたが、僕の方が力は上だったようで。
スポーンといい感じに卵の殻が外れた。
ほっとひと息吐いてから、卵の中身を見るべく視線を戻した。
「…………何これ」
いえ、変なものではありません。むしろ真逆。
「ぎゅっぎゅー! ぎゅぅるぅ‼︎」
ディシャスも見てわかったのだろう。この目の前にあるとてつもなくカワユイ生き物に!
「……ふゅ?」
鳴き声?
にしては可愛すぎじゃないか。
『ふゅ』ってなんだよ、『ふゅ』って⁉︎
それがとんでもなく見た目にもマッチしてるから、僕は鼻血が出そうなくらい興奮してしまった。
(だって仕方ないんだよ?)
雪のような毛並みに短い耳のようなものがピンと立っていて、つぶらなお目々はオパールのように輝いてるけど色は水色。鼻はないがちょこんとしたお口からは尚も『ふゅ』ってもごもご動いている。
手に指はなくて逆三角形の丸っこいフォルムが可愛い。体は全体的に丸く首とかの境目はないけど、そんなの気になんないくらい可愛すぎるよ! 足はまだ殻の中だけど、きっと手みたいに丸っこいんだろうなぁ。
殻が取れず窮屈そうに動いてたから、僕はその子にそっと手を伸ばしてあげた。
「ふゅ?」
「待ってて、取ってあげるよ」
けど、難しそうだな。ぴったりはまってるよ。
とりあえず、寝そべらせて引っ張ってみるかと僕はその子を仰向けに寝かせて殻の端に両手をかけた。
「せーーぇの‼︎ うーーーんっ!」
「ふゅ⁉︎」
引っ張ったらびっくりしたのかその子が声を上げた。
痛くないかと思って見たが、きゃっきゃと楽しそうに手をバタバタさせてるだけだった。
ダメだなぁ、その仕草。可愛すぎでこっちの力が抜けちゃうじゃないか!
だけど、そんな場合じゃないので一生懸命引っ張ってみる。しっかし、上の時と違って中々引っこ抜けないな。これはもう割った方が早いかな?
「どうやって割ろうかな……?」
その辺にあいにく石なんかは転がってないし、ポケットに鈍器なんかぁ持っちゃいない。
それか、この子を持ち上げて何度か地面にコンコンって殻の部分を打ち付けるか?
試しに先に取れた殻を地面にコンコンって打ち付けるとパキリとヒビが入った。
「よし、この方法にしよう」
「ふゅ?」
「ちょーっと我慢しててね?」
僕はその子を抱っこして、ディシャスには離れておくよう言っておく。
そして、地面からだいたい20センチくらいの高さから少し勢いをつけて地面に殻を打ち付けた。
バキィ!
一発で上手くいったみたい。
ヒビが入ったとこからぱかりと半分に割れて、僕は殻を丁寧に一個ずつその子から剥がした。
予想通り、両足も丸っこい。
なんかクマのぬいぐるみみたく出っ張ってるけど指先はなくて、手と同様に丸っこいのです。
「ふゅ、ふゅー!」
邪魔なものがなくなってスッキリしたのか、バタバタと手足を動かしていた。
(うんうん、良かった良かった)
ところで、この子どう言う生き物なんだろ?
クマでもないし、どっちかと言えばハムスターを大きくして小っちゃい耳が猫みたいに立ってるって感じだけど。
ジーっと見つめていると、僕の視線に気づいたのかその子が顔を上げた。
「ふゅ?」
「…………ダメだ。可愛いからなんでもいいや!」
むぎゅーってたまらずその子を抱きしめてしまう。
すると、背中の方になんかがついてるような感触を得た。殻の残りにしては非常に柔らかい。
なんだろうと獣ちゃんを反転させると、目の前に金色が飛び込んできた。
「は、羽? いやこれって翼⁉︎」
ふわさっと、拡がったのは淡い金色の両翼。
けど、これも全体的に丸っこい。羽根の先や形とかも天使の翼って見えなくもないけど、鳥なんかよりは丸みを帯びている。
触ってみれば綿みたいな手触り。病みつきになりそうだ。
「ふゅ、ふゅー!」
「あ、ごめんごめん。くすぐったいよね」
また反転させて表に戻すと、つぶらな水色の瞳とかっちり目が合ってしまった。
「やっぱり可愛すぎー!」
「……ぎゅぅるぅ」
「あ」
しまった。僕とこの子だけじゃなかった。
振り返れば、予想通り不機嫌丸出しのディシャスが頭を下げていた。
「ご、ごめんよディシャス!」
「ぎゅぅ……」
駆け寄ってやって、お鼻を撫で撫でしてあげた。
それでもまだ不機嫌さは治らないようで、ぶーって不貞腐れていた。
「ごめんって! ディシャスも可愛いよ?」
「ぎゅぅ?」
ほんと?って首を傾げられ、僕はうんうんと頷いた。
なんだかんだで大っきくて威厳ある体格だけども、仕草が人間味あって可愛いんだよねディシャス。
最初に怖いって思った気持ちはもうどこにもないよ?
撫で撫でを繰り返していると、すりっと手に鼻を寄せてきて喉を鳴らした。
良かった、とりあえずは機嫌治ったみたい。
だけども、
「君どうしようか?」
「ふゅ?」
離せないってのは突発的な欲求だったけど、この獣ちゃんは僕のモノじゃない。
こんな洞窟にぽつねんと卵のまま置いておかれてたのは何か意味があるものだったかもしれないし、生まれたのは本当に偶然だ。
ディシャスはこの子の卵がここにあるのを知っていた風だったし、ひょっとしたらエディオスさんやセヴィルさん達も知ってるかもしれない。
だとしたら、トップシークレットな案件じゃないかこの子は。
(つ、連れて行っていいかな?)
こんな洞窟に居たら食べ物も何もないし独りぼっちだ。
って、思い出したよ。
「ディシャス、帰りはまた君がなんとかしてくれるの?」
「ぎゅぅぎゅぅ」
聞けば、任せてーって頷いてくれた。
そこは大丈夫なようだ。
「君もおいでねー?」
「ふゅ」
声をかけて上げれば、ぴっと片手を上げて意思を示してくれた。
(ああ、ダメだよ。鼻血吹きそう……)
おまけにピコピコ翼も動くから2倍可愛さが増していた。
「あ、そうだ。卵の殻は一応持って行こう」
獣ちゃんを一旦降ろして、僕は割れた卵の殻を拾い集めて大きい破片の中にまとめた。
袋は持ってないけども、ポケットに入る大きさじゃないからね。獣ちゃんは軽いから片手で抱っこ出来そうだし。
全部まとめてから、僕は二人?の元へ戻って獣ちゃんを片腕で抱っこした。
「じゃあ、ディシャスお願いします」
「ぎゅぅるぅ!」
ディシャスの足元に近づいて、今度は自分の意志でディシャスの手に抱っこされる。ただ、腕に抱いてた獣ちゃんには細心の注意を払って、握られたディシャスの人差し指の上に乗っけてしっかりホールドしておく。
「準備オッケー!」
「ふゅ?」
「ぎゅぅぎゅぅ」
こっちも準備万端と言う風にディシャスは声を上げて、獣ちゃんはこてんと首を傾いだ、ように体が傾いた。
後ろ姿だけでも充分可愛すぎだよ。ふわふわの翼もピコピコ動いてて可愛さが倍増してるし!
ギィシャァアアアア!
洞窟に反響してディシャスの咆哮が響き渡る。
と同時に僕らは薄っすら透け出して、やがてその場から消えてしまった。




