三人の魔女
「メグレン様っっ!」
「やあ、心配をかけて済まない。魔女様と少し話し込んでしまってね」
早速後ろに控えたアニエスから殺気が発せられる。
ここまで大事になるほどに、魔女と話すとは何事だという怒りだろう。
メツィアも困ったように眉を寄せた。
しかし、リリアヴェルは……。
「……貴方はどなたです?メグレン様は何処におられますの?」
リリアヴェルの発した言葉は心底不思議そうである。
歓迎するメグレンはどう見ても……アニエスとメツィアから見ればメグレンその人であった。
「私がメグレンだ。どうしたんだ?暫く会っていなかっただけで婚約者の顔を見忘れたのかい?」
「いいえ。忘れる筈などないではありませんか。ですから、お尋ねしておりますの。わたくしの愛するメグレン様はどちらにおわすのかと」
背は高く、しなやかに強靭さをもつ身体。
艶やかな黒髪に、冷たい青色の瞳は、いつもと変化がない。
此処に他の者がいたとして、おかしくなったのはリリアヴェルの方だと皆が思うだろう。
「何故そんな事を言うんだ。さあ、こっちにおいで、ヴェリー」
「その名はメグレン様だけの呼び名です。おやめくださいませ」
毅然と拒否の言葉を口にするリリアヴェルに、困ったようにメグレンは苦笑した。
抱きしめようと広げた腕をもう一度上にあげて問う。
「だから、俺がメグレンだろう?」
「いいえ、メグレン様はそんな冷たい目でわたくしをご覧になる事はございませんわ!」
「冷たい目……」
確かに、メグレンはリリアヴェルと出会うまで氷の貴公子だの、冷たい美貌だとか言われていた。
今でも大体、第一印象を聞かれればそう答える人間も多いだろう。
だが、やはりアニエスとメツィアにはその違いは分からなかった。
メグレンと共に首を傾げてしまったほどだ。
「メグレン様は、わたくしをご覧になる時、それはとても情熱的な眼をなさいますの!まるでこの世界にわたくししかいないというような、切実さと熱意の籠った眼で……まるで包み込むような愛情と、熱情に浮かされたような……そんな瞳をなさっておいでなのです!!」
めちゃくちゃ強烈な惚気をかまされて、アニエスとメツィアは、ああ、と表情を失くしつつ納得した。
目の前のメグレンは、焦ったように言う。
「愛なら、ある」
「いいえ、中身が少しも伴っていない抜け殻のメグレン様に言われても、わたくしの心は動きませんわ!」
ついに、中身が伴っていない事になってしまったのである。
少しもという形容詞が、これだけ強い事があるだろうか。
中の人も、多分、色々な経験と人生を歩んできただろうに、まさかの全否定である。
とんだ会心の一撃を食らったのだ。
生温かい目の外野を前に、中身がないと言われたメグレンらしき人も必死に両手を広げた。
「ほら……きっと君は混乱しているだけだ!抱きしめれば分かるだろう!」
「メグレン様以外の方にこの身を預ける訳には参りませんっ!!」
完全拒否である。
もう完全にメグレンじゃないと言い切っているのだから、アニエスもメツィアもリリアヴェルを信じるしかなかった。
というか、取り乱しているように見えるメグレンが哀れに思えてきたのだ。
そして、リリアヴェルがとどめとばかりに声を張り上げる。
「お戯れもほどほどになさいませ!わたくしはメグレン様の身を案じて冷たい夜の中を駆けて参りましたの。どうか、わたくしの愛する殿下をお返しください」
「……無理」
その一言でとうとう、ふわりとヴェールが剥がれるようにメグレンのいた場所に魔女が立っていた。
くるくると巻いた赤毛の、煽情的かつ肉感的な美女である。
「無理無理無理!こんなのいくら私だって術を保ってられないわよ!!」
「だから言ったのだ、無理だと」
「そうよ!さっさと殿下を解放しなさいな!」
いつの間にか現れた北の魔女、リーシアは白銀の髪に黒と見紛うほどの濃い藍の瞳を呆れた様に細めながら言う。
傍らに現れたのは、黒髪に黒に近い紅の瞳の、小さな魔女だ。
いきなりの魔女三人に、思わずリリアヴェルは呟いた。
「お菓子……足りますかしら……?」
お菓子もっともってくれば良かった…




