わたくしが今!助けに参りますわ!
リンドワース王国の王都と、アキュラム帝国の帝都を結ぶ街道は片路五日程度である。
王都は西寄り、帝都は東寄りにあるお陰で、両国の首都が近い。
軍事力がなく平和なリンドワース王国寄りの方が、何かと便利だという事で歴代の皇帝により何度か遷都が為されてきたのである。
王国から帝国への国境付近まで僅か一日。
その国境付近にある広大な針葉樹の森こそ、黒檀の森と呼ばれる場所である。
外郭には杉などの針葉樹が生えているが、森の中を分け入っていくと植生が変化していく。
黒檀の木が増え、中でも一際大きい黒檀の木が魔女の住処の傍に生えていた。
魔女が出てきて応対する事も有れば、出てこない時もある。
初めて訪れる時だけは、皇帝と皇太子が来るので、魔女も同席するのだが。
礼儀を守って、用意された枝を受け取り、代わりに貢ぎ物を置いて帰るのが、仕来りである。
所要時間は十分とかからない。
ただし、森の中に立ち入りを許可されているのは皇族のみであり、その他の人間が魔女の許可なく立ち入ろうとしても、いつの間にか迷って気が付けば森の外に出ているのだ。
ゆえに、帝国の迷いの森とも呼ばれている。
近隣の農民達などは心得ていて、魔女の森には立ち入らない。
立ち入ったところで、呪われるだけと信じているからだ。
それに、中に入って何かを得たとしても、許可なく持ち去れば呪いが降りかかるという言い伝えもある。
何より自分の思ったように森の中を進めないという恐怖が、そこに厳然と横たわっているのだ。
その森に、メグレンは一人で向かった。
そして、消息を絶ったのである。
ハルヴィア公爵家に一報が入ったのは、メグレンと別れて僅か1日。
見送った翌日の夜に、ラウレンツ宛に急使が発せられたのである。
報せを受け取ったラウレンツは、顔色を失くした。
本来なら帝国の秘事であるそれを、よりにもよってリリアヴェルに見とがめられてしまったのである。
「ラウレンツ様、もしかして、メグレン様の身に何か……!?」
大きな金色の瞳が心配そうに揺れるのを見て、ラウレンツは覚悟を決めた。
どちらにせよ、夜間に国境を越えるのであれば、速やかに王城に向かって手続きを取る必要がある。
「黒檀の魔女の森にて、戻られぬと。……ただ、皇族がかの森で迷うとは聞いた事がございませんし、森の外には選りすぐりの騎士達が控えておりますれば、何者かが後を追っていたとしても森に入るのは容易くなく。更に魔女様の許可がなくば、迷うだけの森です。何があったのかは分かりませんが、帝都に報せが届くよりもこちらが動く方が早いと思われます」
「そうですわね。わたくしも参ります」
即決だった。
即断即決のリリアヴェルの決定に、思わずラウレンツも口を開けた。
言うだろうな、と思っていたカインも外套を持って立ち上がる。
「止めても無駄だ、ラウレンツ。この娘は黙って待っていられるようなお姫様じゃない。それよりも初動が肝心だ。何にせよ手続きが必要だろう。国境までは俺も行くし、公爵家の騎士団も付けよう」
「………あ、ああ。有難く。この礼は必ず」
「ではお兄様、わたくしもすぐに支度をして参りますので、先に王城へ」
「分かった。行くぞラウレンツ」
話を聞いていたハルヴィア公爵も上着を侍従に着せて貰いながら、席を立つ。
リリアヴェルは急いで侍女達に命じて、旅支度の準備にかかった。
訓練で着ている軽鎧に防寒用のマントとケープを羽織り、馬に騎乗して王城へ駆ける姿は、さながら姫を救出せんとする騎士のようでもあったのである。
フッ軽令嬢!




