いいから早く行け!
翌日からのリリアヴェルは沈む事など一切無くなっていた。
早朝から公爵家の騎士達に混ざって、訓練を開始したのである。
元々、王城に居た時も訓練には参加していた。
何せヨシュアを守る為に強くなれと命じられていたからだ。
メグレンとヨシュアの勝負の時に心配していたリリアヴェルに言ってやりたかった。
間違いなくヨシュアよりお前の方が強いぞ、と。
ヨシュアと国王の所為で辺境に左遷されていた騎士達もカイン主導の下公爵家で雇い直していた。
王家からは慰謝料も分捕り、家族がいる者達は公爵領か王都で、養う家族がいない者はリリアヴェルの護衛として帝国へと派遣する事に決まっている。
幼い頃からリリアヴェルを娘や妹の如く親身に見守ってくれた人々に囲まれての修練。
話しながらそれを見ていたレミシアとカインに気が付いて、リリアヴェルは小さく手を振った。
それに応えつつ、カインはレミシアに請う。
「今は違う方に突っ走り始めてしまったから、君からも時々、結婚式の用意について忘れないよう釘を刺してくれ」
「ええ。心得ておりましてよ。素敵なメグレン皇太子殿下の横に並ぶには、どうしたらよいか問えば良いのです。きっとあの方の為ならそちらに走り出しますわ」
何となく、暴走馬扱いになっている。
忍び笑いと共に、カインは頷いた。
平和な数日を過ごし、いざメグレンの見送りとなった時には流石に泣くだろうとカインもレミシアも思っていた。
父母である公爵夫妻と、使用人達が全員屋敷の前に勢揃いして、旅立ち前に立ち寄った皇太子殿下の馬車を見守っている。
馬車から降りた正装の皇太子メグレンを見て、リリアヴェルはうっとりと頬を染めて見上げた。
ちなみにこの日も、午前中はべったり……授業ではあるものの、寄り添うように過ごしていたのである。
「メグレン様、どうかお気をつけて」
「ああ、ヴェリー。君も風邪など召さぬようにな」
「はい。わたくし頑張りますわ!」
泣きそうな顔をしなくなったリリアヴェルを不思議に思ったメグレンにカインは既に理由を尋ねられていた。
帝国から戦を排除する、というリリアヴェルの壮大な決意も。
よって、今何に対してリリアヴェルが猛然と頑張ると言っているのかは、メグレンも理解していた。
リリアヴェルがメグレン馬鹿だとしたら、メグレンもリリアヴェル馬鹿である。
「君の為に、俺もこの心臓を賭そう」
「まあ、いけませんわ!……ずっと一緒に居てくださいませ」
「ああ、そうだったな。それは破れない約束だ」
いちゃいちゃしている。
もう十分もこんな感じで惚気を見せられている。
早く行け、と半分くらいの人間は思っているかもしれない。
「殿下、そろそろお時間ですよ」
促したのは、王都に残ってリリアヴェルの家庭教師を続けるラウレンツだ。
良い仕事だ!と思ったのはカインだけではない。
レミシアも力強く、だが丁寧にその言葉に頷いていた。
「そうか……名残惜しいな」
「わたくしもです。わたくしが鳥だったら、一緒に飛んでゆけますのに……」
「君が鳥になってしまったら、何処かへ飛んで行かないか心配だ」
「まあ!ずっとメグレン様のお傍を離れませんわ!」
いいから早く行け。
カインも思わず口に出さずに突っ込んだ。
こいつらは何が何でも惚気に繋げる天才なのである。
放っておくとずっといちゃいちゃしてる。




