まさかの小人形《ちびぬい》
冷たい風と共に厳しい冬が訪れようとしていた。
王国の学園生活もとうとう冬の休暇に入る事となり、生徒達が帰省を始める。
普段は寮生活をしている生徒達も、王室の行事にと王都へやって来る家族と過ごしたり、勉強が順調な生徒ならばその後領地での長期休暇も許可されていた。
幸せな結婚を控えているリリアヴェルの周囲には、常に帝国の護衛と侍女がぴったりと付いていたが、周囲も気にせず普段通りに過ごしていた。
リリアヴェルが婚約披露に訪れた際に帝国で作った菓子目録の人気は、ここ王国に於いても留まる事を知らない。
今や本屋や菓子屋でも庶民向け版も売られているほどだ。
そして、臨時の働き手として流通や製菓に携わった生徒も、その家人達も皆、新しい仕事に意欲的に取り組んでいる。
友人達は嬉しそうにリリアヴェルに仕事や結婚、婚約についても報告した。
未来の皇太子妃に対してというよりは、大好きで大切な友人に接するように。
「リリアヴェル様のおかげで、とても充実した日々を暮らせおります」
「わたくしも、帝国に行く事に決めましたわ」
「まあ、それは大変嬉しゅうございますわ。お友達がいらっしゃると心強うございますもの」
満開の花が咲き誇るように微笑むリリアヴェルを見て、我も我もと男女関係なく励ましや近況報告の言葉を紡ぐ。
貴族も平民も、王国に残る者も帝国へと赴く者も。
「わたくしは、王国にてリリアヴェル様のお菓子の質を落とさぬよう努めて参ります!」
「私も、帝国に小人形の制作をしないかとお声を頂きました!」
そう。
実は、帝国でも小人形がちょっとした流行になっていたのである。
婚約披露のリリアヴェルの控室にて、ソファに置かれお菓子とお茶のおもてなしをうけていたメグレンの小人形を見た令嬢達が、こぞってリリアヴェルの真似をし始めたからだ。
王国に訪れた商人が、小人形の制作一式を仕入れて店先に置いたところ、ご令嬢方に無理を言われて困っていたお針子達が手を伸ばしたのだ。
これから皇太子妃となる公爵令嬢の事業の一つとして、正式に契約を取り交わして、色々な色の髪型などの注文を受けた店側が、一式を用意する。
その内手作りしたいというご令嬢の為に、王国から帝国語を話せる制作者が招待されるなどして、急速に帝国でも浸透していったのだ。
こちらも羊毛などが大量に消費されることになり、生産者である領地からは嬉しい悲鳴が上がった。
更に、素っ気なかった婚約中の令嬢達が自分を模した人形を愛でていると聞けば、令息達も満更ではなく。
次々と未来の皇太子夫妻に中てられた婚約中の令息、令嬢が恋の炎を燃え上がらせていったのである。
帝国はある意味、大炎上を迎えていた。
火付け役のリリアヴェルの知らぬ所で燃え上がった炎は、しかし思いも因らぬ人へとその余波をぶつけていた。
「え?俺の人形……?」
カインの侍従は大きく頷いて、手に入れた件の小人形をカインの目の前に並べた。
王国での騎士礼装や帝国での外務用の礼装など、綺麗に作られている。
見事だ……ではない!
感心しかけて、カインは眉を顰めた。
「これは……何故こんな物が?」
「カイン様は知らぬ事と存じますが、王国でもカイン様の小人形は以前より大人気でして……」
「………は?」
間抜けな声と同じく、間抜けな顔をしているだろうなと思いつつ、カインの口からはそんな声しか出なかった。
小人形が流行っているのは知っていたが、まさかの自分である。
「独身で婚約者もいらっしゃらない、将来有望な男性の数は限られます」
こほんと咳払いした侍従が言う言葉に、否やはないのだが。
そこに最近まで、でーんとその頂点にのさばっていたのがメグレン皇太子である。
その影に隠れるように、密かな人気を誇っていたカインに、今や光が当たっていた。
幸せにしたとばっちりが、思わぬ形でカインに反射してきたのである。




