魔女への贈り物
そうですわよね!
魔女様たちだって、退屈なさっておいでなのですもの。
折角の儀礼や、交流を邪魔する事は絶対になりませんわ。
それに、新作のお菓子を進呈すれば、きっと喜んで頂けるに違いありません!
甘いお菓子だけでなく、甘さが控えめなお菓子。
ほろ苦い味も、爽やかな柑橘系も……。
長久の時間を生きる魔女は孤独である、という歴史学者がいる。
魔女同士反目する事は余程の事が無い限りは無い。
お互いの縄張りを大事にし、不可侵であるという関係。
彼女らの線引きや境界は、人間達の造った国よりも古い。
気が合う相手が居れば、偶に顔を合わせる事もあるというが、行き来が数十年単位で絶えている相手もいるという。
だから、偶に訪れる人間を愛でる魔女も少なくないらしい。
リリアヴェルの茶飲み友達となってしまった北の魔女と呼ばれるリーシアもその一人だ。
積極的に人間達と関わることは無くても、森への立ち入りを許しているし、魔女の治める土地には彼女達の定めた規則がある。
その規則を守り、無礼を働かなければ特に問題は起きない。
この国の王妃候補を外れたわたくしは、別の日に北の魔女様の御機嫌伺いをして、メグレン様と帝国の魔女様にご挨拶に行けば良いのではないかしら?
リリアヴェルは閃いた顔をして、兄のカインを見、カインは呆れたような眼差しを向ける。
「それは、駄目だよ。リリアヴェル」
察したカインが首をふるふると横に振って、じっとリリアヴェルを注視した。
付き合いの浅いレミシアは、そんなカインを見て、後ろで括った髪が揺れるのを、馬の尻尾みたいですわ、などと暢気な感想を抱きながら見守っている。
リリアヴェルは、でも、とカインの言葉に食いつく。
「でも、きっと北の魔女様も笑ってお許しになりますわ」
「だとしても、駄目だよ、リリ。君はもう王子の婚約者ではないから、任を解かれたとはいえ、北の魔女様のお気に入りだという話はもう知れている。今回の贈物を渡す時に、レミシアに引継ぎをしなくてはならない」
帝国に新年の儀礼があるように、王国にも魔女にも1年の終わりと始まりの時に贈り物を贈る習慣がある。
今でも定期的にお茶会をしている気安さはあっても、国としての行事と言われればそれまでだ。
「……そう、ですわよね。北の魔女様が笑ってお許しになろうとも、国の大切な行事ですもの。ヨシュア殿下の婚約者ではなくても、この国に住まう民としての最後の務めですから……」
くすん、と鼻を鳴らして涙を堪えるリリアヴェルは周囲の哀れを誘う。
とはいえ、こればかりはカインの言う事が正しいし、リリアヴェルも理解していた。
「メグレン様の持って行かれる荷物と共に忍び込んで付いて行くのは諦めます……」
そんな事を考えてたのか。
突っ込みを入れる前に、素早く動いた者がいた。
そう、永遠の相方、メグレンである。
「何を言う、愛しいヴェリー。君を荷物なんかと共になど運ぶ訳はないだろう。この国の事情が無ければ、俺の膝に抱いて帝国に連れ帰りたかった!」
「ああっ、メグレン様っ」
ぴたっと寄り添う二人に、突っ込む気が失せた外野はその様子を眺めつつ話し合った。
「今年の贈物は何に致しましたの?」
「ああ、ここ毎年はリリアヴェルと当家のお抱えシェフの共作の菓子だな……これから忙しくなる」
「万が一にも抜け出して……などという事が無いよう、わたくしも監視しながらリリの手伝いをいたしますわ」
「そうしてくれると有り難い」
カインはちらとレミシアを見て、ほんのり微笑んだ。
一応、国の大事と理解はしているようだが、あの二人を信用してはいけない。
何せ恋は盲目、なのである。
油断も隙もありゃしねぇ!(レミシア)




