冬の祝祭と魔女
すっかり二人のほっこりした雰囲気に呑みこまれていた、カインがハッと何かに気づいたように顔を上げた。
「いや、ちがうメグレン。今日は用があって来たんだろう?」
今日は、用があって。
そう。
何時もは用も無いのに来ている。
リリアヴェルに会う為だけに。
その言葉にレミシアは呆れたようにため息を吐いて見せるが、カインもレミシアも優しく和んだ目で二人を見つめている。
メグレンは言われた言葉に、こちらもハッとカインを見返した。
「そうだった。ヴェリー。年始めの祝賀の儀に、私は国に戻らねばならぬのだ」
公的な用事だからか、皇太子らしい言葉遣いになるメグレンをうっとりとリリアヴェルは見上げた。
いつ何時も見惚れているのだが、まるで新しい魅力にまた気づいたというように頬を染めている。
普段の気さくなメグレン様も素敵ですけれど、
公的なお話をされる皇太子殿下としてのメグレン様も尊いですわ!!
などと脳内で春祭りの先取りが始まっているリリアヴェルは気付くのに遅れた。
十日以上会えなくなってしまうのだ、と。
気付いた途端、リリアヴェルはふるふると色づいた果実の様な唇を震わせて、
眼に涙さえ浮かべてメグレンを見上げる。
「寂しゅうございますが、公務ですもの……仕方のない事でございます……」
震える声を健気に紡ぐが、目にはみるみると涙が溜まっていく。
そんな痛ましい姿のリリアヴェルを見つめるメグレンもまた、悲痛な面持ちでリリアヴェルの両手を両手で包み込んでいる。
いきなり春の花が吹雪で散らされたような、そんな二人を見つめる外野。
レミシアとカインは吹雪の直撃を受けながら言葉を交わす。
「死ぬわけじゃあるまいし」
「……言うな、レミシア」
出会ってからというもの、ほぼ毎日顔を合わせた挙句に、散々お互いへの愛を伝えあっていた二人の突然の別離である。
突然とは言っても、毎年の恒例行事なのだから、二人とも把握はしていた筈だ。
ただ、自分達が離れ離れになるという事を忘れていただけで。
愛おしそうに、それでいて切なげに長い指でリリアヴェルの涙を拭っていたメグレンを見上げて、リリアヴェルは一生懸命回避方法を模索していた。
公務の邪魔をする事は不可能である。
毎年恒例の行事であるだけでなく、儀礼的な意味を持つ祝祭でもあるのだ。
この大陸には殆ど全ての国が、魔女のいる森を国内に有している。
国と国の間に横たわる様な広大な森を有している魔女も。
力のある魔女達は、国や気に入った者達に祝福を与える代わりに、嫌いな相手に呪いを振り撒いたりもする。
国によっては災厄と恐れられたり、逆に女神の様に信奉される場所もあるのだが、帝国はちょうどその中間だった。
畏れを持ちつつ、守護を受ける代わりに儀礼的行事をもってその立場を守り、敬っている。
その国の子供達が、童話のように親から言われる話が一般的な国民の魔女への価値観である。
「怒らせてはいけないもの」
それが帝国に伝わる魔女の話だ。
なまじ軍事力がある大国なだけに、場所によっては魔女との激しい戦いの歴史が存在する。
ちなみに、王国はのんびりしたもので。
「何か薬草くれる人」
「話せば分かる隣人」
という、何とも適当でほのぼのとした扱いである。
魔女とは人智を越えた人間でない者、な筈なのに、何故か王国になると魔女って言っても人間に毛が生えたようなものでしょ、という雰囲気になってしまう。
最早これは国民性だ。
魔女と争った歴史がない王国ならではの扱いである。
だからこそ、自国の魔女と交流し、歴史を学んできたリリアヴェルには理解出来た。
何時も通り、斜め上の方向に。




