お義姉様ったら、気が早いですわ!
メグレンは遠く王都で指揮を執りつつ、今まで以上に緊密にハルヴィア公爵家を訪れていた。
カインですら、もう、住んじゃえばいいじゃない?と思ったのだが。
婚約者の兄が言って良い事ではないな、と思い留まっていた。
でも、効率や合理性を求めるレミシアがばっさりとそれを口にしたのである。
「もう、いっその事公爵家に居をお移しになっては如何?」
初めて出会ってから色褪せず、ぴったりと寄り添って幸せそうにしている二人に、生温い視線を向けながら。
しかし、その言葉を聞いたリリアヴェルはソファの上で飛び上がった。
「ま、まだ早すぎますわ!お義姉様」
頬を真っ赤に染めて、両手でそれを隠すようにリリアヴェルはくねくねと身を悶えた。
早いってお前……とレミシアとカインが半眼になる。
あと数カ月もすれば結婚なのだが、まだ早いらしい。
片や、横にいるメグレンは悲壮な顔をしている。
「さすがに、母上がそれは許さぬだろう」
「悲しい顔だ……」
あまりにも悲壮な顔をするので、思わずカインは呟いてしまった。
とはいえ、一国の皇太子が婚前に、婚約者と住むとなれば同衾まで疑われるだろう。
何処の国の王室でも皇室でも、初夜とは、結婚とは神聖なものなのである。
乱れているのはこの王国くらいだ。
ちらりとカインがレミシアに目を遣れば、レミシアはすと視線を逸らした。
「まあ、普通はそうですわよね。それに、毎日お会いできるのが嬉しいと、リリアヴェルの顔にも書いてありますもの」
「ま、まあ!そうでしょうか!はずかしゅうございますわ!」
盛大に恥ずかしがっているが、100人中100人がそう分かるほどリリアヴェルはメグレンを目の前にすると浮かれ切っている。
「嬉しいよ、ヴェリー。俺も毎日君に会えて幸せだ」
「わたくしもです!本当なら片時も離れたくございませんけれど……でも、お逢いする度に神の起こした奇跡に感謝してしまいます」
「ああ、そうだ。本日は敷石様にお供えする菓子も持参しているよ」
優雅にさっと手先を挙げれば、侍従がすっと菓子を取り出してリリアヴェル付きの侍女へと手渡した。
そして、もう一つを卓の上に載せる。
「こっちはヴェリーの分だ。食後に食べると良い」
「まあ、メグレン様がお帰りになって寂しくなったら頂いても良いですか?」
「勿論……でもきちんと晩餐が入る分は残しておくんだよ?」
完全に二人の世界で愛を育んでいるが、カインは今まで外野が一人だった分少しだけ心強い。
同じく外野のレミシアが冷たく疑問を投げかけたのだ。
「恋をすると人間って馬鹿になるのかしら?」
「偶然だな、俺も同じ事考えてた」
冷徹皇子とか、氷の貴公子だとか、何だかそんな感じの痛い二つ名で呼ばれていたのに、跡形もない。
すっかり雪解けを迎えてしまっている。
春はまだなのに、二人のほっこり空間は春爛漫だ。
結婚式までまだもうちょっと色々あったりします。
早く結婚してくれ……!




