世界一幸運な男(皇帝と皇太子)
皇后とリリアヴェルが和やかにお茶会をしている間、メグレンは父親である皇帝との時間を過ごしていた。
帝国の皇帝としては穏やかな方で、厳しくも優しい父親である。
「其方に任せた町の整備は順調なようだな」
「ええ、リリアヴェルを帝国に迎えるころには全て問題なく準備出来るかと」
優し気な皇帝の問いかけに、笑顔でメグレンも応える。
メグレンの行う町の整備はリリアヴェルと婚約を結んだ直後に手を着け始めていた。
「其方が貧民街を無くすと言い出した時は気が狂ったかと思ったぞ」
「彼らの多くは技術や職がない貧困からくるものです。なれば、与えれば良いだけの話ですから」
犯罪の温床にもなり得る貧民街は、暗く迷路のように入り組んでいて騎士団や警吏隊でも足を踏み入れるのが困難だった。
側近達に指揮を執らせ、犯罪者から浮浪者、孤児に至るまでを捕縛し、教育を施す事にしたのである。
清潔な衣服に住居、栄養のある食事を与えて、軍隊の規律の下で鍛え上げた。
特に土木兵として今後も動員できるように、技術を教え込んだ。
その技術を以て、貧民街や立ち退きをした周囲の町、皇城のすぐ横までの土地に新しい街を敷設している。
逃げ出した者は重罪犯として手配される事になる為、逃亡者はごく少数に留まった。
子供達は他の孤児院からも集められて、雑用係として日々たくましく成長している。
働けない程老いた者や病気の者は救護院に収容され、働ける者は健康を取り戻して勤勉に働き。
順調に街の建設は進んでいた。
「良い娘を見つけたな」
「良い友人のお陰です」
カインという男は、友人としても人間としても得難い人物だ。
容色が優れているのは外交に有利だが、何より頭が切れるし、態度も穏やかで節度もある。
有能な男でありながら、可愛い妹が心配で婚約者も作れないという家族思いの一面も知っていた。
外交官と共に帝国に訪れたカインと知り合い、皇后の出身国であり、中小国である隣国のリンドワースに興味を持ったのが留学の理由の一つだ。
他にも有用な人物がいれば、側近にという考えもあり、留学したのだが。
親友と呼べるまでに親交を深めた友人のカイン。
その妹こそがリリアヴェルだ。
会って欲しいと言われて、何かが変わりそうな予感は、あった。
気になっていたが、思うのが許されない相手だったのだ。
美しく可憐で、礼儀作法も完璧、流暢な帝国語はこちらの外務担当さえ唸るほど。
何より、打算も媚びもない貴族令嬢に初めて出会った。
「運命、というものを信じたくなりましたよ」
「うむ。我が息子にとっても、帝国にとっても誠に慶ばしい縁だ」
物語に出てくるような、曖昧な運命という言葉、事象など信じたことは無い。
けれど。
まさにリリアヴェルとの邂逅は運命だった。
彼女が自由になるその時機に、その場に居合わせられたのは。
そして、あの蕩けるような笑みを受けられたのは。
「はい……世界一幸運な男です、私は」
「大事にせねばな」
「邁進いたします」
きらきらと光を含んだ黄金の瞳を思い出すと、自然と頬が緩んでしまう。
嬉しそうに弾む声で名を呼ばれると、それだけで心臓がきゅっと掴まれるようで。
陽に艶めく桃色の髪も、頬を染めてはにかむ姿も、全てが可憐で美しい。
出来得る限り、彼女の望みは叶えてやりたい。
……美術館はおいておくとして。
とんでもない事を言い出しはするが、それも愛情からと思うと怒れない。
どうして良いか分からずに、皇后に丸投げをしてしまったくらいだ。
それでも、彼女がどうしてもと望んだなら、許してしまうだろう。
夫が許し、息子がした事が皇后を驚かせるのはもう少しだけ先の事である。
我が誕生日なので、怒涛の投稿ラッシュ(何で)




