お兄様!世界の至宝を手に入れましたわ!
リリアヴェルはメグレン美術館について、思い起こしていた。
帝国への強行軍での旅は二日。
警備のために、五日かかる旅程を、夜も移動する事で踏破して帝国へと辿り着いた。
到着した帝国での一日目は、婚約披露の夜会であった。
二日目は、謁見。
三日目は、休養と兼ねて皇太子妃教育という名の、皇后陛下とのお茶会が設けられたのである。
そこで皇后から提案されたのは。
「え?メグレン様美術館を、王城内に……?」
「ええ。王城の敷地外であれば、其方も頻繁に訪れる事は叶わないでしょう?敷地内だとしても、距離があれば移動にも警備が必要となるが、王城内であれば護衛騎士と侍女を連れているだけで良いのです」
リリアヴェルは皇后の言葉を頷いて聞き、凄まじい速度で計算を始めた。
私費はどれだけ投入しても、全額投資しても問題はない。
ないのだが、もし負担を軽くできれば何が出来るのか。
そうですわ!絵が増やせますわね!?
一人でも多くのメグレンを迎えたい気持ちは当然ある。
彫像だってもっと欲しいのだ。
などと目まぐるしく考えていると、皇后が暖かな声で付け加えた。
「王城内なら、賓客にも案内しやすいし、季節ごとに其方の手ずから監修も出来よう。……それに、わたくしや陛下も足を運ぶ事も出来るでしょう?」
「……まあ……、確かに、確かに仰せの通りですわ!配慮が足りませんでした」
親である皇帝夫妻が、息子の絵を見たくない訳がない!とリリアヴェルは改めて気づいて、自分を助走をつけて殴りたい気持ちになってしまったのである。
一々説得力のある皇后の言葉に、リリアヴェルも抗う気持ちは少しも湧かなかった。
「それに、ほら、其方にも渡したい物があるのです」
皇后が斜め後方を見れば、従僕達が布をかけた絵画らしきものを運んできた。
卓の傍らに来れば、皇后が小さく指先を上げる。
その合図を以て、白い布が取り払われた。
そこには、幼い可愛らしい少年の絵があったのである。
「まあ……!これは!幼いメグレン様!?」
少年らしいふっくらとした頬と、幼い頃から美しい顔立ち。
艶やかな黒髪と、冷たい青の瞳さえ、可愛らしさに包まれている。
まさに!至高!
この世界の宝!!!
リリアヴェルは心の中で賛美をして、滂沱の涙を流した。
口に手を当てて、ふるふると震えるリリアヴェルに、皇后は何時も通りの笑みを浮かべて言う。
「そうです。これを其方にあげましょう。今までわたくしが描かせた絵も全て、其方のものですよ」
「皇后陛下……この世界にメグレン様を産み落として下さっただけでなく、その様な宝物まで賜るなんて……わたくし、感動して涙が……」
本当にほろほろと涙を流し始めたリリアヴェルに、思わず皇后は苦笑した。
親にすら勝とうという愛情を持つ娘が、息子の傍にい続けてくれることがどれだけ有難いか、対価としては軽い物だと思っているのに。
それでも、贈物に対して此処まで感動を露にしてくれるのなら贈った甲斐があるというもの。
皇后は労わる様な優しい視線をリリアヴェルに注いだ。
「よい。わたくしよりも其方の方が、長く息子と居ることになりましょう。末永く共に幸せに生きる事をわたくしは望んでいますよ」
「はい!是非、お任せくださいませ!」
涙ながらに、力強く頷いたリリアヴェルに、皇后は相好を崩して微笑み返した。
ほう、と休憩中に皇后との有意義すぎるお茶会を思い出しながら、リリアヴェルはため息を漏らした。
結婚式は、特に、賓客が皇城に沢山いらっしゃいますものね!
是非とも素晴らしい美術館にしなくては……!!
皇后陛下からは、誕生から成人まで毎年描かせたというメグレンの人物画を受け取っていた。
本来なら手元から離したくは無かったが、泣く泣く複製画を依頼して皇太子妃の為にと新しく建てられるリリアヴェルの為の住居に仕舞われることになっている。
勿論、メグレンとの結婚は、リリアヴェルの夢であり、幸せな願いそのものだ。
これから選ぶドレスも装飾品も、全てが素晴らしいものでなくてはならない。
だが、同じ位にメグレンを尊ぶ心もまた、リリアヴェルにとっては大事なのである。
赤ちゃんから大人までの肖像画を並べられてしまう……




