得難い花嫁(皇后、皇太子)
皇后は、菓子目録一式を手に、朝から報告を受けていた。
全く予想外である。
ただし、これは両国の友好を考えれば、大変に喜ばしい事でもあった。
「可愛らしいこと」
そう呟いて笑顔を見せるが、可愛らしいで留まらないのがリリアヴェルである。
本人は親切心で動いているが、商業としての旨味も大きい。
「結婚と共に、菓子職人も引き抜いて参りますわ!」
ふんすふんすと鼻息も荒く語っていたのを思い出すが、帝国にとっても王国にとっても良い事づくめだ。
ただ店を出すだけでは終わらない。
帝国の領地にある特産品を使用しての、菓子。
それは諸外国へも広がっていくだろう。
やりたい事をやっているだけなのだが、最近もメグレンの小人形を製作するにあたって、生地や染色剤など諸々の需要を拡大したという。
供給元の領地を持つ貴族家は大いに潤ったのである。
誠に得難い人物で、王国の馬鹿親子の失態が最早愛おしく感じる程であった。
何よりも息子との相思相愛が眩しい。
母である自分を軽く飛び越える程の溺愛ぶりは、いっそ見事である。
そして、つられたかのように溺愛を返す息子もまた。
この強大な国を治めねばならぬ帝王は孤独である。
などと、感傷を持っていたのは、リリアヴェルに出会う前までの事。
誰が何と言おうとも、彼女は全てを乗り越えて、メグレンに孤独さえ感じさせないだろう。
その点においてもまた、誠に得難い人物なのである。
今日一日くらい休ませたいが、午後からは貴族以外から祝いを受け付ける謁見がある。
メグレンは早速、リリアヴェルの元へ訪れていた。
だが、部屋にいない。
「今しがた、図書館へと向かわれました」
先触れに出した使用人が、困ったように眉を下げて報告したのに手を挙げるだけの返事を返し、踵を返す。
会えると思っていて、すれ違った事で心に少しの焦燥が芽生える。
メグレンは自分の余裕のなさに苦笑した。
だが、足の速度は緩めない。
果たして、リリアヴェルは図書館の机で資料を積み上げて物凄い速度で読んでいた。
えっ?と三度見したいくらいである。
メグレンの背後に控える騎士は、え、と声を漏らしていた。
その位、早い。
頁を繰る手が止まらない。
目的の個所を探しているのかな?と思う速度で捲っているが、目線は確かに読んでいるように動かされている。
可愛い。
うっかり可愛さに全てを持って行かれそうになって、メグレンは邪魔をしないように近くに座ろうとして、リリアヴェルのメグレン感知に引っかかった。
「メグレン様っ!」
いつも通り可愛らしい笑みを浮かべて見上げられて、メグレンも自然と笑顔になる。
「邪魔をしてはならないと思ったのだが、気づかれてしまったな」
「いいえ、不覚でございました!廊下にいらっしゃる時には気づきたかったです!」
それは最早、気配感知である。
熟練の暗殺者も真っ青になるだろう。
「本の続きを読んでも構わないよ。俺は此処で君を見ているから」
「ま、まあ!そんな、メグレン様を目の前に、他の物に目を向けるなど出来ませんわ!」
ずいっと、先程まで熱心に読んでいた本をリリアヴェルは無造作に押しのけた。
邪魔をしたくないのだが、そんなリリアヴェルは可愛い。
「では、本は部屋に運ばせよう。謁見の時間まで俺に君の時間を頂けるだろうか」
「はいっ!勿論でございます!わたくしの時間は全てメグレン様のものですもの」
ただ、お茶をするだけなのだが、全力で答えてくるリリアヴェル。
愛しい女性に、愛を返される嬉しさに、メグレンの心は今日も満たされたのである。
いつでもメグレンに剛速球を投げる系女子リリアヴェル




