満員御礼、令嬢部屋
臨時のお菓子試食会場となったリリアヴェルの休憩室は、令嬢達でごった返していた。
廊下に出たリリアヴェルが、外でそわそわと待っていた低位貴族の令嬢達も招き入れたからである。
可愛らしく飾られた、色とりどりで美味しいお菓子の数々に、皆が次々に手を伸ばして口に入れた。
「ほ、本当に帝都にお店を出されまして?」
「ええ。勿論ですわ。ご希望があれば、お手紙を送ってくださいませ。春まで待たなくとも、お菓子だけ先にお送りしますわ」
「それは、是非!」
「わたくしも!」
希望者が思ったよりも多いので、リリアヴェルはうーん、と首を傾げた。
「ではこう致しましょう。今夜中にお菓子の一覧とお値段を書いた目録をお作り致しますので、明日には皆様のお宅に届けさせますわ。少々お時間は頂きますけれど、日持ちのするお菓子のみを厳選致しますので、楽しみになさってね」
「はいっ!」
そして出来上がったのが、後の王都菓子目録なのである。
楽しそうな喧騒に包まれていた休憩室に、メグレンが颯爽と現れた。
狭くはない部屋だが、令嬢達が過多である。
こんなに詰め込まれた令嬢達と、令嬢入りの部屋をメグレンは初めて目撃した。
「ヴェリー、迎えに来た」
「メグレン様っ……!」
何時もの蕩けるような笑みを浮かべて、いそいそと人の間を縫って入り口のメグレンの元へとリリアヴェルは辿り着いた。
足捌きが見事過ぎて、令嬢達も驚いたのである。
蹴球の選手か何かですか?と問いたくなるくらいの、素早さと避け方であった。
しかも、息一つ乱さず、メグレンをうっとり見上げている。
メグレンも驚いた風は無く、そんなリリアヴェルを愛し気に見下ろした。
「もっと早く迎えに来たかったのだが、色々あってな」
「会えない時間が愛を育てると申しますもの。迎えに来て下さって嬉しゅうございますわ」
会えない時間て。
まだ一時間も経っていませんが。
虚無の表情になった令嬢達が、心の中で盛大に突っ込みを入れた。
しかし、リリアヴェルに関しては、その一時間でも童話の豆の木ばりに成長しそうなのである。
天高く届いてしまう。
「君達もそろそろ会場へ移動するといい」
「仰せのままに」
はっと姿勢を正し、令嬢達が淑女の礼を執ると、メグレンはリリアヴェルを同行して会場へと向かった。
「何か問題は起きなかったか?」
「特には、何もございませんでしたわ。メグレン様を諦めきれない女性達が慟哭するのではないかと危惧しておりましたけれど、わたくしの愛をご理解頂けたのかと」
「そ、そうか」
にこにこと笑顔を浮かべるリリアヴェルに、メグレンは美術館を思い浮かべて、頭の中から追い払った。
それに、慟哭する令嬢など見たくもないし、出来れば存在もしてほしくない。
嫌がらせだけでなく、嫌味程度はあったのではないかと気になって問いかける。
「不快な思いなどはしなかったか?」
「ええと、あっ、そうでしたわ。わたくしの思い違いだったのですけれど、メグレン様美術館を「そんなもの」と申しました令嬢がおりまして、正そうとしたら「メグレン様ではなく美術館の方」と言い直していらしたので、大丈夫です」
いや、それは「そんなもの」扱いで当然だろう!
知らぬ所でぶち上げられて、撃ち落されて、メグレンの心の中は修羅場である。
ちょっと泣きたくなった。
それに、その件はあの皇后が請け負ってくれたのだからお任せしよう、と心を落ち着ける。
「そうか、帝国の令嬢達はどうだった?」
「皆様、大変可愛らしゅうございましたわ」
それは、嘘でも上辺でもなく、本当にそう思っている笑顔で。
きっと彼女の善意や無垢さに触れると、変ってしまうのかもしれない、とメグレンは思った。
皇后付きの侍女さえ今は、生まれた時からリリアヴェル様をお守りしておりますが?みたいな顔をして警戒を怠らない。
時には皇太子である自分にまで牙を向けてくるのである。
「私にとっては誰よりも、ヴェリー、君が可愛らしいよ」
「まっ、まあ、それはこの上なく嬉しゅうございます」
些細な言葉にすら、頬を上気させて微笑む愛しい婚約者に微笑みを返しながら、メグレンは幸せな気持ちで会場へと入った。
慟哭する令嬢は私も見たかったです。




