皆様が、何時でも御姿を拝見出来ますように!
「わたくし、皆様がメグレン様を思う気持ちを考えると、胸が痛みますの……。もし、自分が同じ立場だと思ったら、胸が張り裂けそうになる気持ちも……せめて、お姿だけでも拝見したい、お声だけでも耳にしたい、そう思われますよね!?」
急にキリッと問いかけられた令嬢は、勢いに呑まれて頷いた。
「あっ、ええ……」
正直別にそこまでメグレン皇太子に熱い思いを持っていた訳ではない。
最高権力者で容姿も素晴らしいし、大変だけど選んで貰えたらどうしよう、きゃっくらいにしか思っていなかった。
何だか目の前の公爵令嬢は様子が違う。
「ですから、わたくし、帝国に嫁いできました暁には、メグレン様美術館を建てる予定ですの」
にっこりと微笑みながら言われたのは、破壊力抜群な宣言だった。
普通は、そんな事しない。
ドレスや宝石に使うなら分かるし、メグレンに対して贈るのも分かる。
でも美術館て。
「王国でもですね!沢山の肖像画を描かせましたの。もう既にお部屋に納まりきらない位でして……メグレン様は居心地が悪いと仰るので、美術館を建てる事を思いつきましたのよ」
にこにことリリアヴェルは言うが、幸せにするどころか居心地悪くさせてんじゃねーかと突っ込める令嬢はいなかった。
寧ろ、皇太子が手綱を握り切れていない事に驚きを感じる。
とんだ暴れ馬だった。
多分、恋路を邪魔すると蹴りに来る馬はこいつだ。
「そうすれば、皆様もいつでも、メグレン様のお姿を見る事が出来ますでしょう?」
まるですごく良い提案が出来ました!と言わんばかりの満面の笑みで、手をぱちりと合わせて首を傾げる。
可愛い暴走馬に、令嬢達は唖然としたままだ。
それなりにメグレンを好きだった令嬢だって、美術館を建てる程好きかと言われれば、困ってしまう。
だが、公爵令嬢の一人が、ハッとして、びしりとリリアヴェルに言い返した。
「そんなもの、公費を投入して良い筈がございませんでしょう!?」
「公費ではありませんわ。私費ですのよ」
「はっ?えっ?」
公爵令嬢の意見に賛成しようとした令嬢も固まった。
まさか、そんな事の為に私費を投じる馬鹿がいるとは思わなかったのである。
「そんな事より、先程、聞き捨てならない言葉をお聞きしましたけれども、そんなもの、って仰いまして?メグレン様の尊いお姿を並べる美術館を、そんなもの、と?」
やべー女に目をつけられた公爵令嬢は、さあっと顔を蒼くした。
「い、いえ、メグレン様がどうとかではなく、美術館よりも優先されるべき施設があると思ったのです……」
苦しい言い訳だが、リリアヴェルは簡単に笑顔を取り戻した。
「そうでしたのね!今何が必要な施設なのでしょう?是非教えて頂けませんか?」
振り切れた暴走馬による恋の話から、突然政治の話に切り替えられて、令嬢はうっと言葉に詰まった。
勉強は勿論、政治についても学んでは来たが、これといって展望がある訳ではない。
「実は帝都のお勉強をさせて頂いていましたが、流石ですわね。交通も、流通網も素晴らしく、庶民向けの施設も充実しておりますでしょう?でも可愛らしい菓子店が少ない、とは聞いておりますの。ですので、王国の菓子職人を連れてお店を作りたいと思いますのよ。皆様のご実家の領地の特産品を使った物なども考案予定ですわ!」
後ろの方にいた令嬢が小さく手を挙げた。
「どうぞ、発言なさって」
目敏く見つけたリリアヴェルが促すと、その令嬢はリリアヴェルの背後にある卓に目を向けた。
「もしや、そちらにございますのは、王国のお菓子では?」
「ええ、そうですの。宜しければ、召し上がって感想をお聞かせ頂けるかしら?」
おずおずと進み出た令嬢が、色鮮やかな菓子の一つを摘んで口に入れる。
ぱああっと浮かべた令嬢の笑顔に、皆が確信した。
美味しいやつ……!
「す、すごくふわふわで、しゅわっと蕩けて、美味しゅうございます……っ!」
「こちらはメレンゲでクリームを挟んだマカロンになりますわ。是非皆様もお召し上がりになって」
にこにこと、卓を指し示されれば、顔を見合わせた令嬢達がそそくさと近づいてきて、扇で口元を隠しながらもお菓子を頬張った。
王国産の素晴らしく美味しいお菓子の数々に、令嬢達は虜になったのである。
メグレンへの愛で脅かし、王国のお菓子で胃袋を掴んだ……!




