皇太子の選んだ花嫁
帝国貴族達にとって、帝国とは大陸一強大な権力を持つ国で、国土の広さも軍の強さも抜きんでているという自負がある。
ゆえに、王国貴族を親に持つ皇后は、それだけで謗られる要素があった。
だが、皇后の美しさや賢さ、何より強さがその偏見を捩じ伏せてきたのである。
今は皇帝同様崇敬を集めていた。
何より、皇太子のメグレンは容色もさることながら、文武に秀でており、苛烈な一面もありながら穏やかさも持つ、次代を背負うのに間違いない帝王として認識されていた。
だからこそ、貴族達はこぞって娘を、姉を、妹を、姪を、従姉妹をと様々な血縁者を何とか、皇太子の歯牙にかけて貰おうと必死で捧げてきたのだが、それを一蹴したのは皇后である。
皇后自らじっくりと観察し、少しの過ちでも落とされ、国内の有力貴族達の令嬢は軒並み不合格だった。
されば、愛妾にでもと、自らがばら撒いた種を収穫し、市井から養女に迎えて美しさに磨きをかけても、淑女教育が出来ていなければ門前払いだ。
メグレンの気さえ惹ければ、と出会いを演出しても不発に終わる。
だからこそ、メグレン皇太子が自ら見出し、皇后が認めた令嬢というのが気になっていたのである。
帝国から見れば、王国は中小国。
二代続けて后に迎えるなど、王国民の誼で皇后陛下も目が曇られたか、などと陰で言う者も居た。
だが、帝国から王国へ行ったことのある貴族達だけは、その反発が妥当でない事を示していたのである。
可愛らしく利発で、王妃として育てられた少女は、皇后としても仕えたいと思える相手である、と。
そして、メグレンに同行され、会場に現れた令嬢は何とも不均衡な魅力で、男性達の心を搔き立てた。
ピンクブロンドの髪と、滑らかなミルク色の肌にふっくらした薔薇色の頬。
大きな瞳は、とろりとした蜂蜜色で、可愛らしい。
だが、メグレンの色のドレスはその可憐さに、妙な艶やかさを与えていた。
処女と妖婦が同居するような美しさに、度肝を抜かれ、心臓を鷲掴みにされたのである。
だが、女性達には、可愛らしく完璧なお姫様の様な女性、と映った。
如何にも何も知らなそうな、無害で無邪気な少女のよう、と侮る気持ちさえ浮かべる者もまた。
逆に、年若い令嬢などは憧れを抱く者もいた。
「皆の者、今宵はよくぞ集まってくれた。我が息子メグレンが、とうとう自ら花嫁を手に入れて参ったのだ。婚約も滞りなく済み、春になれば晴れて婚姻する若き二人を、皆も祝ってくれ」
前に進み出た二人が、そのまま会場の中央へと進み出ると、音楽が奏でられた。
帝国式のダンスを、メグレンがリリアヴェルと踊る。
皇太子の目には明らかな恋情と情欲が宿り、対する公爵令嬢の目には憧憬と愛情が満ち溢れていた。
相思相愛の二人のダンスは、美しく睦まじく。
誰もが、この二人を引き裂くことは出来ないと感じる程に皇太子の熱烈さが周囲に伝わったのである。
寿ぎの挨拶に訪れた貴族達はまた、間近で皇太子妃となるリリアヴェルと言葉を交わして驚いた。
それは外国人が普段話すような帝国語ではなく、帝国貴族の中でも上級に分類される貴族や王族の如き言葉だったのである。
美しく流暢な帝国語に、誰もが内心驚きを隠せなかった。
「皇后陛下のお話だと、皇妹オーギュスティーヌ様とも懇意の令嬢らしい」
「皇后陛下と皇妹殿下が後ろ盾にいるのでは、もう間違いないな」
婚約と言えど引っくり返す事が可能である。
だが、メグレン皇太子という逸材が手放すような失態を冒す訳はなく。
皇后に皇妹という、帝国での女性の最高権力者達に認められていては手の出しようがない。
だが、何時の時代にも愚かな者はいるのである。
最後は少し不穏……嫌がらせ展開はひよこもどうやって解決しようかーと思いつつ書き始めたのに、全く予想もしない方向に(リリアヴェルのせいで)




