お兄様、心許ございませんわ!(枚数的に)
カインによって事件が暴かれて、処分がされていたその頃、リリアヴェルは帝国へと来ていた。
皇后陛下とメグレンは、卒業と共にリリアヴェルを帝国へと連れ帰り、すぐにも式を挙げたいと切望している。
当然ながら、リリアヴェルやハルヴィア公爵家も異存は無かった。
その為に、前もって婚約が成立した事を帝国でも布告し、婚約祝いの祝宴を開いて帝国内の貴族を全て集めたのである。
最初は婚前旅行!?と期待していたが、機動性と機密性を重視して、夜も移動に使っていた為、旅行などとは縁遠い移動になってしまったのである。
残念ではあったが、日中ずっとメグレンが目の前にいる事も、寄り添う事も出来るのでリリアヴェルは大満足の旅になったと無邪気に笑い、メグレンに生殺試練を何度も提供した。
リリアヴェルの囲いである侍女や騎士達も、何くれとなく名物やら甘い菓子やら美味しい物を差し入れてくれるので、お腹も満足する旅になったのである。
皇城に着いてからは、皇帝陛下にも謁見し、護衛侍女達に未来の宮殿を隈なく案内された。
メグレンは今夜行われる夜会の準備で忙しいらしい。
それに今日から数日過ごすのは長年誰も使っていなかった皇女宮だ。
王国での語学の教師兼茶飲み友達であるオーギュスティーヌ様以来だろうか。
「まああ!素敵なお庭ですわね!オーギュスティーヌ様の仰っていた通りですわ。ご覧になって、アニエス、エメ。奥の方に咲いている椿の見事なこと」
侍女達はにこやかに、白魚の様な手で指し示された生け垣を見る。
確かにそこには零れ落ちそうな程の大ぶりの赤い花が咲いていた。
「お分け致しましょうか?」
不意に男の声がして、アニエスとエメが身を低くし、手に武器を構えた。
びっくりしたように青年は跪く。
「庭師でございます!普段人が来ないので作業を許されておりました。侍女の方だけかと」
「姿を見れば高貴な御方と分かるでしょう。其方が軽々に口を利いたり、賤しい身を晒して良い御方ではない」
「アニエス、もう許して差し上げて。それに、オーギュスティーヌ様のお庭を荒らしてはいけませんわ。次にお会いした時に許可を得てからお譲り戴くことに致します」
やんわりとそう言えば、震えながら庭師が言った。
「その、裏手にも同じ木がありまして……そちらからでしたら」
「口を利くなと言っている。下がれ」
青年は顔を伏せたまま立ち上がり、急いで庭の奥へと消えて行った。
油断なく見送ってから、アニエスの後ろを警戒していた護衛騎士に命じる。
「護衛を倍に増やす様に。それと、庭の管理者を詰問するよう執事長に連絡を。リリアヴェル様、お部屋に参りましょう」
「ええ」
緊迫した雰囲気に、リリアヴェルは素直に頷いた。
王国はもっとのんびりとした空気だったので驚いたが、オーギュスティーヌも皇后も確かに怜悧で油断のない空気を纏っている。
わたくしもあんな風になれるかしら!
無駄な憧れを抱きつつ、守ってくれた侍女と騎士に感謝しながら、リリアヴェルは与えられた部屋へと向かった。
その部屋は何というか、桃色。
白と桃色とフリフリとフワフワの綿菓子の様な空間であった。
「え?ここ、オーギュスティーヌ様のお部屋ですの?」
あまりの解釈違いにリリアヴェルは眩暈がした。
だが、エメが首を振って答える。
「元はそうでしたが、リリアヴェル様用に、皇后陛下が皇妹様の許可を得て、二人で改装なさったそうです」
「まあ……!可愛らしいお部屋で嬉しゅうございますわ!」
にこにこと微笑んだリリアヴェルは早速、公爵家の侍女に命じて家から運んできたメグレンの肖像画を壁に飾る。
「うふふ!これで完成、ですわね!」
まだ一枚と心許ないが、正式に移り住む事になった暁には王国の画家も連れて来るし、帝国でも新たな画家を発掘して、一大メグレン帝国を作り上げるのである。
お気に入りの一枚を持参しました!うふふ!




