いい加減理解なさって?(レミシア)
四人が予想した通り、ヨシュア王子はご満悦だった。
レミシアとの婚約が正式に発表され、王家が公式となって小人形の販売が広く認められたのである。
リリアヴェル発案ともあって、ヨシュアはキメ顔でレミシアに言った。
「もしかしたらリリアヴェルはまだ僕の事を愛しているのかもしれない」
「寝言は寝てから言って」
レミシアの返答は簡潔かつ怜悧だった。
しかし、ヨシュアは変な方向に丈夫な精神をしているのだ。
「だが、この人形は彼女の作った物だろう?」
「いいえ。リリが作ったのはわたくしの人形だけよ。貴方の人形の意匠を決めたのも作ったのも見知らぬおっさんです。リリは貴方の事をこれっぽっちも愛していないですから、失礼な事言わないで」
疑問を口にすれば、ざくざくと刃で切りつけるような返答が帰ってきて、ヨシュアは悲し気な顔をした。
「嫉妬しているのかい?」
「いいえ、全然。いつまでしがみ付いているのよ本当。貴方が10年愛されてたとしても、その思い出とメグレン殿下との思い出を秤にかけたら、10年と釣り合うのは1日にも満たないわよ」
「そんな事がある訳はないだろう」
窘めるような諭すような顔で言われて、レミシアはいい加減腹が立ってきたので、提案した。
「じゃあいいわ。わたくしとリリの会話を其処の影で聞いていて。貴方達、ヨシュアが口を出さないように押さえていて頂戴。口も塞いでね」
側近達は命令されるがまま、不敬…と言いかけたヨシュアを押さえつけて物陰に引きずり込む。
「失礼します殿下」
「レミシア様の御命令なので」
その間に呼びに行かせた側近と共に、リリアヴェルが生徒会室にひょっこり顔を出した。
「お義姉様がお呼びとお聞きしまして……あの、殿下はいらっしゃいませんよね?」
「ええ、いないわ。席を外してもらっているの。安心したかしら?」
「ええ、安心いたしました」
ほっとした表情になったリリアヴェルに椅子を勧めて、レミシアも目の前に座る。
そして大きくため息を吐いた。
「まだね、ヨシュアが勘違いしているみたいなの。貴女に愛されているんじゃないかって」
「ええ……まだそんな事を仰っておられますの……?」
今までに何度否定した事か、とリリアヴェルは困惑の表情を浮かべる。
それは普通の感覚だ。
「学習能力に重大な欠陥でもお持ちなのでしょうか……」
「愛されていないという現実を受け入れたくないのでしょうね」
可愛らしい声で中々酷い事を言うが、それでもまだぬるいかもしれないとレミシアはため息を吐いた。
そして、先程の質問をする。
「もし、ヨシュアの思い出と、メグレン殿下の思い出を秤にかけるとして、10年と釣り合うのはどの位かしら?」
「ヨシュア殿下の思い出が10年、ですわよね?………ええと、1秒ですね」
まさかの一秒。
男性諸君は胸を押さえた。
自分がその様な評価を好きな相手から下されたら、公開処刑である。
「メグレン殿下と過ごした時間は1秒たりとも忘れたくないですし、失いたくない物ですの。だって、わたくしは、心からメグレン様の事をお慕い申し上げているのですもの!」
「ちなみに、ヨシュアの事は?」
「何とも思っておりませんし、近頃は話も通じないので迷惑でございますね……あ、お義姉様の婚約者なのに、わたくしとした事が、言い過ぎてしまいました」
恐縮したようにリリアヴェルが首を竦めるが、レミシアは微笑んだ。
「いいのよ。気持ちはよく分かるもの。愛してもいないし、好きでもないって事よね」
「はい。またメグレン様とのお約束を破って、話しかけてくるような事がありましたら、嫌いになるかもしれません」
「こちらからも徹底して抗議しておくから安心して。急に呼び出して悪かったわね、リリ」
「いえ、側近の方々もお義姉様も、お仕事頑張ってくださいませ。今度は差し入れを届けさせて頂きます」
仲の良い義姉妹の邂逅を終えて、リリアヴェルが部屋を後にするとヨシュアは漸く側近達から解放された。
その目の前にレミシアが仁王立ちして見下ろしている。
「聞いておられましたね?殿下。二度と世迷言はお口になさらぬよう」
「分かった……レミシアがそんなに僕を愛してくれて嬉しいよ」
相変わらず丈夫な起き上がり小法師であるヨシュアは、キメ顔でフッと爽やかに微笑みながら言う。
ヨシュアの言葉に側近達は脱力し、レミシアは目と眉を吊り上げた。
脳内でヨシュアをぐるぐる巻きにして川に投げ入れる事で漸くその怒りを抑え込んだのである。
本当に無駄にタフな王子です。




