お兄様、わたくし、どうしたら??
「では、贈物の交換を致しましょう!わたくしからはこれです!」
差し出された箱は小ぶりで、少し高さのある箱だが掌サイズではある。
宝飾品ではなさそうだな、と思いながらもメグレンはリリアヴェルに優しく訊いた。
「中身を見てもいいか?」
「ええ、勿論でございます!」
元気いっぱいに言って微笑むリリアヴェルを目の前に、リボンを解き包み紙を開き、箱を開ける。
中には小さな人形が入っていた。
それはリリアヴェルを模した小人形だったのである。
ピンクの髪の毛に、愛らしい睫毛が数本付いた大きな金色の瞳。
顔は丹念に刺繍されている。
とても可愛らしく、リリアヴェルの特徴を掴んだ小人形だ。
「わたくしは自分の為にメグレン様の小人形を作ったので、わたくしの小人形をメグレン様のお側に置いて頂きたくて」
もじもじとスカートを恥ずかしそうにいじっているリリアヴェルが可愛らしく、愛しい。
「ありがとう。とても可愛らしいな。大事にするよ」
メグレンが小人形を見て、小人形に顔を近づけるとリリアヴェルが割って入った。
「駄目!駄目でございます!……だって、あの……メグレン様の口づけは、わたくしに先にして頂けないと、その……!」
真っ赤になって、涙さえ浮かべて主張するリリアヴェルに思わず理性が崩壊しそうになって、何とかメグレンは目を閉じてそれを堪えた。
まさに生殺しだし、試練だ。
生殺試練である。
下らない造語を作りつつ、メグレンは目を閉じたまま頷いた。
「昨今の物語では婚姻もしていない、婚約中の男女が口づけを交わすという不埒な場面もあるようだが、あと数か月で私達は式を挙げる。その時にこそ、君に全てを捧げ、君の全てを奪いたい。だから、我慢しよう」
そう言ってメグレンに微笑まれれば、リリアヴェルもほっとしたように穏やかな笑顔を浮かべた。
自分を模した人形にすら、先を越されたくは無かったのである。
「はい、メグレン様。その日を心よりお待ち申し上げておりますわ」
手を触れられるだけで、抱きしめられるだけで、死にそうになる自分が何処まで耐えられるかは不安ではあるものの、メグレンには全てを委ねる気持ちである。
幸せそうに、リリアヴェルはメグレンを見上げた。
「………だから、今はこれで」
メグレンの大きな手が顎に添えられ、親指がリリアヴェルの唇をなぞる。
その指を、メグレンは自分の形の良い薄い唇に当てた。
ぽうっとした顔で見上げ続けていたリリアヴェルの唇に、もう一度その指を重ねる。
ここここれは間接キスというやつではぁぁ!?!!?
意識した途端、リリアヴェルの意識はぶっ飛んだ。
力なく意識を手放したリリアヴェルを慌てて抱えたメグレンは、ゆっくりと抱き上げて寝台に優しく下ろした。
「しまった……やり過ぎたな……」
巷の男女の行う恋愛行動としては軽い物ではあるが、箱入りのリリアヴェルにとっては相当な衝撃である。
後ろから殺気に似た圧を感じて振り返れば、護衛侍女のアニエスが控えていた。
鋭い眼を吊り上げて、責め苛むような視線を浴びせてくる。
「皇后さまにご報告はさせて頂きますので」
「……お叱りは受けよう……」
皇后付きの侍女でありながら、既に侍女達も護衛騎士達も、すっかりリリアヴェルの心の美しさや無邪気さに篭絡されている。
邪気だらけの世界に生きて来た彼らにとって、彼女は宝石よりも価値ある宝物だろう。
だから、それを害した罪は重い。
きっとカインにも怒られるだろうなぁ、とメグレンは苦笑した。
間接キスで倒れました。尊死です。メグレンおこられる。




