優子と純子と
翌日、僕は眠い頭で体を引きずって登校した。
単純に、ゲームのやりすぎだ。
昨日DVDレンタルショップで買ったゲームはそれぐらい面白かった。
欠伸をする。
「寝不足?」
一緒にいる優子が訊ねてくる。
「うん、ちょっとゲームに熱中しちゃって」
「よくないなー。私達は座学ばっかりじゃないんだから体調は整えないと」
「そうだな。まったくそうだ。けど」
僕は暫し考えた後言う。
「わかっちゃいるけどやめられない」
「そう言うと思ったよ」
優子は苦笑する。
爽やかな風が吹く朝の町は心地良かった。
昼休み、優子に弁当を貰おうと教室を後にする。
そこで、出待ちしていた純子と鉢合わせした。
「琴谷先輩!」
「おお、なんだ。待ってたのか」
「映画見ましたよ、映画」
ああ、そういえば感想を教えてくれとか言った覚えがある。
「どうだった?」
「英治君らしいかなって感じ」
苦笑した。
英治は冒険に憧れていた。だから多分それは、英雄譚なのだろう。
「で、これ。又貸しって基本駄目だろうけど、お貸しします」
そう言って彼女が取り出したのは紙袋だ。
素直に受け取る。
中にはDVDが入っていた。
「感想、教えて下さいね」
「わかった。約束する」
不思議な縁で出会った。その繋がりが続こうとしている。
優子はどう思うだろう。それだけが懸念だ。
「それじゃ、私、行きます」
「わかった。またな」
「今の、剣姫じゃないか?」
唐突に後ろから声をかけられて、僕は飛び上がりそうになった。
徹だ。
「剣姫?」
「刀匠のホルダーだよ。一流の属性剣を大量に生産している。現時点でそれだから才能アリだな」
「製造科かぁ。見たことないわけだ」
「で、琴谷先輩はどうするんだ?」
徹がからっかうように聞いてくる。
「とりあえずDVD見るかな」
「おやおや。優子が知ったらどう思うだろう」
「優子と一緒に見るよ」
「案外あざといよなお前って」
そう言って、徹は笑って僕の背を叩く。
「それじゃ行くか。昼飯に」
「そうだな」
翌日の放課後、僕は製造科の実習室に向かった。
ドワーフや職人達の中に、純子がいた。
なにやら目を閉じて念じている。
すると、純子の周囲に七本の剣が現れた。
剣は空中で浮かんで、静止している。
純子はそれを一本一本手に取る。
そして、気に入らないものはハンマーで破壊してしまった。
残ったのは三本。
力仕事で疲れたらしく、額の汗を拭っている。
「やるじゃないか。一気に七本なんて初めて見た」
「剣を作るしか脳がないから」
純子は苦笑交じりに言う。
「いや、そのおかげで不死鳥戦では多いに助かった」
「不死鳥と戦ったことがあるんですか?」
純子が興味深げに顔を覗き込んでくる。
「ああ、まあ」
「じゃあ、今度話を聞かせてくださいよ。昼休みにコーヒーでも飲みながら」
「いや、昼休みは先約があるんだ」
「じゃあ、休みですね。映画の感想を言い合いつつ」
なんだかまずい予感がしてきた。
このまま彼女と仲良くなると優子の逆鱗に触れる気がする。
しかし、英治の友人で、ポンポンと会話が進む人間とは、是非友達になりたい。
僕は男女の友情を信じるたちなのだ。
「わかったよ。じゃあ、今度の休日図書館ででも待ち合わせよう」
「はい!」
純子は満面の笑みを浮かべた。
(まいったな……)
偶然の出会いから世間話をする仲へ。
二人は明らかにステップアップしている。
(まあ、いいか)
僕は優子が好きだ。それさえ忘れなければいい。そう思った。
続く




