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取引

 都心の夜の公園で、バンチョーは剣也と向かい合っていた。

 バンチョーは一歩踏み込む。

 その途端、剣也は素早く銃を抜いた。


「それ以上近づくな」


 バンチョーは息を呑む。

 異界展開をしてもギリギリ飲み込めない位置。そこに、剣也は立っていた。

 偶然か? それとも、歴戦の勘か?


「聞き込みの結果、歌世が最後に会話を交わしたのは君だとわかってのう。君は、アークスだろう?」


「……はい」


 今更否定したところでどうしようもない。

 自分がアークスであることは歌世達には知れ渡っている。


「ならば、君を疑うのが人情というものではないかの? ん?」


「やはり、あの大量の出血は歌世先生の……?」


「あの会場であれ以来姿を消したのは歌世しかおらんよ」


 気が重くなる。

 できるだけ考えないようにしていた。

 けれども、もしもあの出血が、死亡者が、歌世ならば。

 多分、原因は自分にある。


「しょうがないですなあ。わしも腹ぁくくりますわ」


 バンチョーの言葉に、剣也は頷く。

 バンチョーはそう言って、とつとつと語り始めた。


「歌世先生は、知ってはいけない秘密を知ってしまったんです」


「ほう、秘密、とな」


「わしはそれを上司に連絡した。それだけです」


「なるほどな」


「後のことは知りません。歌世先生には恩もある。こんなことになるとは、思いもしなかった」


「なるほど……」


 剣也はしばし考え込む。

 断罪を待つ罪人の気持ちでバンチョーは固唾をのむ。

 バンチョーには神の闘気という防御スキルがある。

 しかし、今は銃弾が発射されたなら素直に受け止めるつもりでいた。

 剣也が口を開く。


「このままじゃわしも歌世の二の舞いじゃ。だから君に、呪いを残そう」


「呪い……?」


 剣也の瞳が、鋭く細められた。


「ナンバースとアークス。二つの組織が同じ根から枝分かれした元は一つの組織だったとしたら、どうする?」


 バンチョーは絶句する。

 それでは、これまでの争いは、ただの身内争いではないか。


「異様に多い探索員の構成員。一般人は皆無と言ってもいい。そう考えれば腑に落ちるのじゃよ」


 言われてみればそうだ。

 ナンバーㇲも、アークスも、探索員の構成員が多すぎる。


「これでお主も秘密を持った。さて、これを上司に報告できるかの?」


 バンチョーは考えるまでもなく苦笑した。


「できませんね。わしも暗殺されてしまう」


「最後に聞く。お前が報告した上司とは誰だ?」


 バンチョーはしばし考え、そして、諦めて全てを答えた。

 今、バンチョーの運命は、全てこの老人の掌の上だ。


「探索庁長官、平金ツヨシ」


「それだけ聞ければ十分じゃ。じゃあの」


 そう言って、老人は去って行った。

 立ち向かう気だろうか、彼は。

 アークスの護衛が集まるツヨシの元へと。


 しかし、それは最早自分とは関係がないことだ。

 そして、バンチョーは、自分がアークスに所属していることに、疑念を覚え始めていた。



続く

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