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優子の応援演説

 体育館の雛壇の袖から床に座る生徒達を盗み見する。

 皆、興味深げに雑談をしている。

 一つ一つは小さな声だが重なると一つの大きな雑音だ。


「緊張してきたなあ」


 苦笑交じりに言う。


「私で本当に良かったのかな」


 原稿用紙を片手に優子が言う。


「僕を一番知ってるのは優子しかいないだろ」


 僕は優子の手を握る。


「頼んだ」


 優子の目をまっすぐに見る。

 優子は微笑んで、頷いた。


「それでは、応援演説の時間です」


 生徒会長が優子の名を呼ぶ。

 優子は僕の頬にキスをすると、軽やかな足取りで舞台の中央に出た。

 そして、マイクを受け取ると、深々と生徒達に向かって一礼した。


「私は、琴谷君とは小さい頃からの付き合いです。だからこそ、琴谷君をよく知っているし、生徒会長に推すことができます」


 優子の声が体育館に響く。

 雑音が小さくなっていった。


「琴谷君の性格としては、まずは普通に引っ込み思案です。だから、生徒会長選挙を戦うと決めた時は密かに驚きました」


 小さな笑いの波が起こる。

 敵意を持つ笑いではなく、むしろ親しみを感じさせる笑いだった。


「けど、琴谷君は子供の頃からそうでした。今でも昨日のことのように思い出します。私と友人と琴谷君は、幼い頃に異界から出てきたキメラと遭遇しました」


 懐かしい。

 あの頃からずっと優子は僕が好きだったという。

 僕が幼子だった頃から優子はずっと優子だったのだ。


「臆病で引っ込み思案な琴谷君がどうしたと思います? なんと、キメラの前に枝を持って立ちふさがったのです」


 ざわめきが起こる。

 それはそうだろう。

 あれは、我ながら生きた心地がしない出来事だった。


「しばし睨み合った後、先に目を逸らしたのはキメラでした。キメラは去っていき、私は命を救われました。琴谷君はいざという時は人を守るために勇気を振り絞れる人なのです。それは、今も変わらないと思います」


 僕は胸が熱くなった。

 一言一言から感じる。

 優子が僕を愛している、と。


 これ以上ない応援演説で、これ以上ないラブレターだ。


「琴谷君は皆に優しくて、皆を守る生徒会長になれると思います。二人の友人の為にキメラの前に、カードホールドもまともな武器もなしに立ちふさがった琴谷君。皆さんも、彼を信じてみてください。私からは以上です。応援演説でした」


 拍手喝采が起こる。

 優子は照れくさげに一礼する。


 使の同級生も応援演説をしたが、優子の後では印象に乏しいものだった。

 なにせ、小さい頃からの幼馴染と、会って一ヶ月も経っていない取り巻きの差だ。

 応援演説は、僕達サイドが圧倒的優勢で幕を閉じたのだった。


 後は公約発表だ。

 反対側の袖にいる使と目が合う。

 使は微笑むと、優雅な足取りで体育館の壇の中央へと歩いていった。




続く







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