公約
「まあその辺りの話は私達も知ってるよ」
昼休みにあったことを夜の公園で語ると、師匠はそう言った。
「天界、か」
呟くように言って彼女は頭上を見上げる。
「で、会心の公約は考えたのかい?」
「それが、まだ……」
師匠が複雑げにこちらを見る。
「頼むぜヒーロー。使が仲間になったら実質天界を巻き込むようなもんなんだから
」
「責任重大、ですか?」
「だなあ」
僕はぼんやりと、頭に思い浮かべていた言葉を口にすることにした。
「会心の、かはわからないけど、思い浮かんだものはあるんです」
「そうこなくっちゃ。言ってみなよ」
師匠が表情を和らげる。
「学校の私服自由化」
「却下」
即答だった。
「なんで君は専門学校なのに制服があると思う? MTだと判断するためさ。辞めるとなれば反ホールド団体とやりあう必要が出てくるけどどうする?」
僕は意気消沈して肩を落とした。
「やめときます」
「それが賢明だ」
「うーん、なんかいいの、ないかなあ。師匠、なんか案ないです?」
「そうだなあ」
師匠は暫し考える。
「驚くぐらいないな。現状に満足してしまっているらしい」
「さいですか」
困ってしまった。
この件になると、皆あてにならない。
恵なんて食堂での二郎系ラーメンメニュー追加などという自分の願望丸出しの案を出してくるぐらいだ。
「うーん」
「水曜の正午まで後十二時間。存分に考えることだね」
「そうします」
その時、蝉の鳴き声がした。
「早いな」
師匠が感慨深げにそう言う。
「最近暖かくなってきたからそろそろでしたよ」
僕は苦笑して返す。
「今の時間にも終わりが来るんだろうなああ」
「平和に終わることを祈るのみです」
「まったくだ」
師匠はコーヒーの缶を飲み干すと、ゴミ箱に放り込んだ。
乾いた音が鳴る。
「コンビニ行くけどなんか買ってきてほしいものある?」
「今日は訓練はしないんで?」
「公約考えるほうが優先だろ。生徒会長選挙期間中は訓練はなしだ」
「なまりそうだなあ」
僕は再度苦笑する。
「ダイエットと一緒さ。数年かけて身につけたものが一日二日で消えるわけ無いだろう?」
「そうですね。すぐ勘を取り戻すと信じてます」
「その意気だ」
そう言って僕の肩をぽんと叩くと、師匠は去っていった。
「公約、公約、公約……」
呟きながら考える。
そして、思い至る。
自分なら、どんな学校に通いたい?
(なんでも相談できてサポートしてくれる。そんな学校にいたいよな)
公約の輪郭が、おぼろげに形になってきた気がした。
続く




