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天野使

 蹴鞠はいつも通り屋上で弁当を食べていた。

 集団生活が苦手な蹴鞠にとって、昼休憩の屋上は憩いの時間だ。

 後はコトブキが来れば、と思うのだが、彼にはいつの間にか恋人ができたのだった。


(恋人かあ……)


 冷凍食品のカツを食べながらしばし考える。

 バンチョーの顔が何故か脳裏に浮かび、慌てて打ち消した。


 その時、屋上の扉が開いた。

 入ってきた少女を見て、蹴鞠は目を見開いた。


 初めて見る顔だ。そして、それ以上に美少女だ。

 雪のように白い肌と色の抜け落ちたような腰まである赤い髪。

 水が溜まりそうな長い睫毛。

 逆卵型の輪郭に彫りの深い目鼻立ち。


 その年頃でないと出せない美しさというものがあるが、彼女の美しさにはそういった儚げなものがあった。


「あの」


 薄いピンク色の唇が動く。


「はい」


 蹴鞠は柄にもなく緊張しつつ、カツを飲み込む。


「場所、譲って貰えないでしょうか。不浄な地上。昼ぐらいは天に近い場所で過ごしたいのです」


 そこで蹴鞠は我に返った。

 彼女の靴のラインは緑色。一年生だ。

 それが、三年の自分に場所を譲れと言っている。


(図々しくね?)


 というのが素直な感想だった。


「やだよ。ここの鍵は私が開けた。私にも使う権利がある」


「なら、その鍵も譲ってください」


(やっぱ図々しい)


 蹴鞠は苛立ってきた。

 この一年坊は一体何様のつもりなのだろう。


「やだよ。その見返りにあんたは何をくれるって言うんだい」


「そうですね……」


 顎に人差し指を当てて、彼女は考えこんだ。


「貴女のカード、汚染されている。それを、聖なる物に変えてあげましょう」


「私の、カードを?」


 確かに、蹴鞠のカードは四天王に乗っ取られた経緯から混沌種に進化している。

 しかし、それで戦力アップしたのも確かだ。


 彼女は近付いてくる。

 普通の少女に何ができる。

 蹴鞠はカツの切れ端をもう一つ口に入れた。


 少女は、蹴鞠のカードホールドに触れた。

 その指先から光が放たれる。


 蹴鞠は戸惑った。

 力が流れ込んでくる。それも、聖なる力だ。

 勇者、聖獣、聖女のような、聖属性の力。


 気がつくと、禍々しい混沌の古代種のカードは、天界の古代種のカードに生まれ変わっていた。

 試しに、カードホールドを起動する。

 白い羽の生えた六枚羽が、背中に生えた。


「これは……」


「これで、貴女は私に貸しができました。恩には代償を払うのが魔界と現界の法則。貴女は私に屋上を譲るのが相当です」


「あんたは、一体……」


 少女は微笑んで、髪をかきあげた。


「私は、天野使。生徒会長選挙に立候補した者です」


 そう言うと、しゃがんでいた彼女は立ち上がり、フェンスに向かって歩いていった。


「いい風ですね」


 蹴鞠は、唖然とするしかなかった。

 天野使。何者だ?

 只者ではないのは確かだった。

 生徒会長選挙といえば後輩のコトブキが候補になっている。

 一波乱ありそうだ。



続く

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