別れ
「ちょっといいか」
緑が話しかけてきたので、僕はそちらに視線を向けた。
緑は居心地が悪そうな、バツが悪そうな、そんな表情をしている。
何か話だろうか。
緑は皆から少し離れた場所へ歩き始める。
僕はその後に続く。
緑は振り返ると、数秒考えた後、口を開いた。
「俺はこれで帰るわ」
「徒歩で?」
「恵さんにアクセルフォーをかけてもらう。それで忍者の俺には十分だ」
「わかった。帰り道気をつけてね」
緑はそこで一旦口を閉じたが、視線を逸して言葉を続けた。
「部、抜けようと思う。笹丸も一緒だ」
僕はその一言で鈍器で頭を殴られたような気分になった。
「なんでだよ」
「わかるだろ。最近のこの部は尋常じゃない」
緑はやはりバツが悪そうに言う。
「人間相手に殺し合いや謎の縄張り争いだ。終いにはバンチョーまでおかしくなっちまった。これ以上巻き込まれたくない」
僕は黙り込む。
確かに、最近アークスの相手をすることが多かった。
それは緑の視点から見れば異常なのだろう。
「俺は魔物から現界を守るために探索科に入った。殺し合いのためじゃない」
僕は返す言葉を失う。
沈黙が漂った。
「じゃあ」
そう言って緑はこちらに背を向けて歩き始める。
その背中に手を伸ばしかけて、やめる。
確かに、これ以上ナンバースとアークスの戦いに一般生徒を巻き込むべきではない。
師匠もそう思っていただろうが、今回は余程の異常事態だったのだろう。
しかし、声をかけなければ、緑と自分の道は今後一生交差しないという予感があった。
「待ってるから」
緑が足を止める。
「帰ってくるの、待ってるから。戻りたくなったらいつでも戻ってきてくれ」
緑は振り返らずに、ひらひらと手を振った。
そして、恵にバフを受けて、帰って行ってしまった。
この日、僕は、友人二人を失ったのだった。
続く




