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リジェネ

 歌世は地面を蹴ってコースケに肉薄した。

 コースケは金棒を構える。


 歌世は槍を力任せに振り下ろした。

 金棒と槍がぶつかり合う。

 鈍い音が二つした。


 一つは、骨の折れる音。

 一つは、筋肉の千切れる音。


 コースケの両腕は金棒を持ったままあらぬ方向へと曲がっていた。


「まさか……」


 コースケは唖然として言う。

 そこに歌世は蹴りを御見舞した。


 コースケは後方へと血反吐を吐きながら吹き飛ぶ。

 歌世は荒い呼吸を繰り返し、それに近付いていった。

 その手から、槍が地面へと滑り落ちた。


「鬼のホルダーで助かったね。内臓破裂は免れた」


「歌世ちゃんこそボロボロじゃないか。アクセルイレブンにパワードテン。その両立に肉体が……」


 そこまで言って、コースケは黙り込む。

 歌世の両腕に緑色の光が灯り、傷を癒やしていた。


「自動治癒……? リジェネか」


「これが実用レベルになるまで時間がかかった。しかし一発で倒せなかったら隙ができるのは事実だ」


 歌世はそう言うと槍を再び腕に呼び出し、その穂先をコースケの喉に突きつけた。


「やりなよ、歌世ちゃん。僕らの長い因縁にも決着の時だ」


 コースケは荒い呼吸を繰り返しながら、いっそ清々しげに言う。


「コースケ、ナンバースに入る気はないか」


「勧誘かい?」


 コースケは呆れたように言う。


「私達は同じ部で活動して長い。正直、殺したくない」


 しばし、沈黙が場を漂った。


「歌世ちゃん。魔王はそのうち現世に現れるんだよ」


 コースケは淡々とした口調で言う。


「陰謀論かい?」


「見てみなよ。毎日のようにこの世に現れる新たな異界。異界を閉じる術者は必須なんだ」


 歌世は黙り込む。


「異界を操り魔王の復活を一日でも遅らせ、いざという時は方舟計画で人々を救いの地へ導く。そんな術者が一人でも必要なんだ」


「それを、ナンバースでやればいいい」


「未練だね」


 コースケは滑稽そうに言う。

 歌世は苦笑した。


「そうだな。未練だ」


 歌世はコースケに向かって槍を振り上げた。

 コースケは眼を閉じる。


 その槍が振り下ろされ、切っ先が硬質な物に当たった。

 コースケは戸惑うように目を開く。


 コースケのカードホールドが壊されていた。

 異界の景色が歪み始める。気がつくとそこは、いつもの学校の廊下に戻っていた。


「君をナンバースの捕虜とする。異界操作のいろはを教えてもらおうじゃないか」


「甘いな、歌世ちゃんは」


 コースケはまた、滑稽そうに言う。


「一緒に活動なんかするもんじゃないな。情が移る」


 そう言うと、歌世は腰が抜けたようにその場に座り込んだ。


「アクセル、パワード、リジェネ、この三つを高レベルで維持するにはかなりの集中力を必要とする。私ももうガス欠だ」


「そうか。歌世ちゃんを足止めするという僕の役割は果たせたわけだ」


「悔しいけど、そうだね。後は弟子達を信じるだけだ」


「まったく」


 コースケは溜め息を吐いた。


「君達師弟にはいつも驚かされる」


「進歩するもんだ、人間は。魔王だっていつか乗り越えられるさ」


「どうだろうね。世界に穴を開けるような存在だぜ」


「そうだな……」


 歌世は黙り込む。

 死闘の後、そこには戦いきった二人の奇妙な穏やかな空気が流れていた。



続く

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