浄化
先に動いたのは大吾だった。
剣を振り下ろしてくる。
それを僕は槍で防いだ。
すかさず、攻撃を逸してからの槍の三連撃。
ユニコーンのカードの素早さ。それはそれだけで通常攻撃も高速連撃となる。
大吾はプロテクションのバリアを張り、それを防いだ。
やはりプロテクションをどうにかしない限り勝利はない。
徹は魔法使いに向かっ直進していた。
氷の壁が何層にもできるがそれを一つずつ破壊していく。
コースケは小春に向かっていた。
こちらも何層もの氷の壁ができるが、一枚一枚はそこまで脅威ではない。
そして、師匠と死神は、じっと睨み合って対峙していた。
プロテクションは前面だけの防御。
僕は地面を蹴ると、大吾の背後へ回っていた。
しかし、読まれている。
剣と槍が再び交わった。
「やり直せるだと? お前になにがわかる。俺はもう魔物側の人間だ!」
「違う! 更生の道を模索するんだ。君にはまだまだできることが沢山ある!」
氷の層を破り、ついにコースケは小春の前へと辿り着いた。
コースケの金棒が容赦なく小春に襲いかかる。
「パワードファイブ!」
唱えると、小春は杖を召喚し、金棒をガードした。
しかし、相手が悪い。
コースケはアークス。実力者の一人だ。
コースケは素早く金棒を引くと、次の一撃を繰り出した。
小春の鳩尾に金棒が叩きつけられた。
「まずは一人!」
「小春!」
大吾が慌てて視線をそちらにやる。
チャンスだ。
それもそうだ。
専門学校へ行っていたのも数ヶ月程度。そこから我流で腕を磨くにも限界がある。
僕は高速の一撃を大吾のカードホールドに突き立てた。
しまった、と言わんばかりに大吾が表情を歪める。
そして、光が辺りに広がった。
大吾のカードホールドは仄かに光を放っている。
大吾は驚いたように、自分のカードホールドのメインスロットを見る。
「カードが、混沌種ではなくなっている……?」
大吾は驚いたように言う。
「これで君は普通の勇者だ」
僕は言う。
ユニコーンの角の槍で混沌種のカードを浄化したのだ。
「まだやり直せる。君は一人じゃあない」
「ほざけ!」
大吾は剣を振るう。
それを僕は槍で受け止めた。
「思い出すんだ。カードに見初められた時を。その時は、人の役にたちたいと思ったはずだろう?」
「……もう遅い。俺の復讐で、沢山、沢山死んだ。俺はその罪を背負いきれない」
今にも泣き出しそうな声で大吾は言う。
「大吾、退こう」
死神が言う。
「今回は相手が悪い。混沌種のステータスアップ補正もなくなって、少々しんどいだろう。この異界は放棄する」
「そうはさせない」
師匠が眉間に皺を寄せて言う。
そして天高く飛び上がった。
「ファイアロード!」
師匠の背中に羽が生え、移動した後から炎の渦が巻き上がってくる。
しかし、死神は影の中に潜り込んだ。
大吾も、小春も、魔法使いも、影の中に消えていく。
そして、静寂がその場に残る。
「終わった……のかな?」
コースケが周囲を観察しながら言う。
「そのようね」
師匠は淡々とした口調で言う。
「今なら上位存在はいない。コースケ、コトブキ、異界を閉じて」
大吾は何処へ行ったのだろう。
大吾と小春は日常に戻れるのだろうか。
そんなことが心配で、僕は気もそぞろだった。
続く




