合流
僕と徹は仲間を探して駆け続けた。
優子は無事だろうか。
愛しい恋人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
そして、僕達は袋小路に迷い込んだ。
「行き止まり……? 違うな」
徹が壁を観察しながら呟くように言う。
「確かに」
僕も同意した。
肉塊が蠢く壁に、僅かな切れ目がある。
扉だ。
徹が切れ目に手を入れて引っ張り、押す。
しかし、壁はびくともしない。
僕は壁の向こうに気配を感じ、確信を持って言った。
「この向こうに、聖獣のホルダーがいる」
「俺は禍々しい気配を感じるよ」
「師匠と敵のボスが交戦中なのかな」
「かもしれないな」
数秒、沈黙が漂った。
問題は、どうやってこの扉を開くかだ。
「ブレイクスペルを試す?」
「いや、ブレイクスペルが効くなら最初の時に開いてたはずだ。これはこの異界特有のギミックと考えたほうがいい」
徹の分析は的確だ。
やはり彼は頼りになる。
「なら、後の手段は一つだね」
「ああ。多少力技になるがな」
徹は潮風斬鉄を鞘から引き抜くと、虚空に十字を切った。
「ホーリークロス」
勇者だけに許された聖属性の範囲攻撃。
その威力はそこらの異界のボスすら一撃で屠るほどだ。
壁が消滅し、その奥にいた男に光の奔流が襲い掛かった。
「プロテクション」
男は呟く。
六角形を連ねたようなバリアが現れ、ホーリークロスを防ぐ。
プロテクション。
これもまた勇者固有のスキルだ。
勇者が敵?
思いもしない展開に僕は絶句した。
プロテクションはホーリークロスを完全に防いだ。
「やっと見せたね、隙を!」
緑髪に長い耳のエルフの外見になった師匠が疾風のように駆ける。
瞬きをする間に十数メートルの距離を詰め、槍を男の胸へと突き出した。
男は苦い顔をして回避するが、完全には避けきれなかった。
右肩に槍が突き刺さる。
男は右腕をだらりと下げ、後方へと下がった。
そこに、さらにコースケが追撃する。
「パワード!」
筋力増強スキル、パワード。
コースケの十八番だ。
金棒を振り下ろすと、それはプロテクションに阻まれた。
そして、五人は対峙した。
師匠は愉快げに口を開く。
「さて。ここにいるのは県下でも指折りのメンツだ。どうだい。最後まで立っていた奴がこの県の最強ってことで」
「愉快な提案だね」
コースケが後方に退きながら言う。
「まあ、多少不利な条件が揃ってる人もいるけどね」
飄々とした口調で言う。
「どうだい。乗るかい。反るかい。混沌種の勇者!」
師匠の声に、男はしばらく黙っていたが、目を閉じて溜め息を吐いた。
「二人相手に防戦一方。そこに援軍。認めざるをえないだろう。このままでは、勝てない」
「降参かい?」
「いいや?」
男は目を開いた。
「こちらも仲間を呼ばせてもらう」
男がそう言った次の瞬間、部屋が歪んだ。
そして、僕達は、体育館程の広さの広い部屋に放り込まれていた。
師匠がいる。コースケがいる。徹もいる。
そして、その正面には、四人の若い男女が禍々しい気配を放って佇んでいたのだった。
「ヒール!」
女が唱えると、男の肩の傷がみるみるうちに癒えていった。
「ヒーラーから叩くよ。きりがなくなる」
師匠が言う。
僕は頷いた。
師匠とコースケの攻撃を凌ぎ続けた相手。
簡単には終わらないだろうという確信がそこにはあった。
続く




