表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ話のような恋は諦めました~イナカの男爵令嬢とワケアリ公爵令息さまの白い結婚~  作者: 伊賀海栗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/50

Mission9.おとぎ話を思いだそう_01


 フィンリー様が帰って来なくなってから3日が経過しました。新妻を放置して城にこもりっきりのフィンリー様に、カーラは毎日大激怒です。もちろん、マチルダは彼を擁護しています。


 当の私はというと、体中にカビが生えてしまいそうなくらい滅入っています。ジメジメです。


 だって絶対に私のせいですよね、彼が帰って来ないの。ちょっと冷静になって考えてみたのですけど、彼の立場に立ってみれば善かれと思って恋の仲介を申し出たのに怒られた、となるわけです。そりゃ、イラっとしますよね。


 普通に考えれば、妻が他の男を好いてるかもしれない、という時点でショックでしょうに。まぁ私たちは普通ではないのですけど。


 ソファーの上でクマのフィーノを抱えてジメジメメソメソしていると、マチルダが来客を知らせにやって来ました。


「奥様、テオ様がいらっしゃいました。予定が空いているなら一緒に出掛けようとのことです」


「テオ様が? うーん……応接室へお通ししてお待ちいただいて。すぐに準備するわ」


 外出気分ではないのですが、断るための正当な理由もありませんし。


 そうしてテオ様に連れられて行った先は、墓地でした。


「今日は、生みの母の命日なんです。父上はいつもひとりでここに来るから、俺は兄さんとふたりで来るんだけど……兄さん今すごく忙しいでしょ、今年は各自でって言われちゃって」


 でもひとりは寂しいしとテオ様は笑いますが、本当は私を心配して連れ出してくださったんだと思います。

 広い墓地をゆっくり歩いていると、心が洗われるというか、シャンとしないといけないような、そんな気になりますね。


「ここへ少し顔を出すのも難しいだなんて、フィンリー様は大丈夫でしょうか」


「いやーどうかな。噂なんだけど、ここんとこ毎日ずっと陛下と言い争ってるそうですよ」


「へ? それ、公爵家として問題ないんですか? 何を言い争ってるのかしら」


 あの眼力が凄まじい国王陛下のことですよね、陛下って。あんな怖い方にも物怖じしないフィンリー様をかっこいいと思ってましたけど、言い争ってるって一体何がどうして。


 奥へと歩くほどに、墓石が立派なものへとなっていきます。テオ様の歩みはまだまだ止まる様子はありません。


「ベイラールとしては別に問題ないですね。俺らが王家を支持する限り、王家はベイラールを排除できないんだ」


「王家に最も近く、最も忠実な守護者ってことですね。排除して困るのは王家のほうだと」


「そ。まぁ言い争ってたら忠実とも言い難いんだけど……あ、ここです。なんだ、兄さんもう来てたみたいだ」


 テオ様が立ち止まったのは、二人の天使の像に見守られた立派なお墓でした。そこにはオレンジ色のチューリップが置いてあります。


 私たちも、ここへ来る前に準備した花束をチューリップの横に置きました。


「テオ様はお母様のことは……」


「ですね、何も知らない。オレンジのチューリップが好きだったそうですよ。すごく綺麗な人で……そうだ、このあとベイラールの屋敷へ行きましょう。母の肖像画があるので、是非」


 テオ様のお誘いに頷いて、私は胸の前で手を組みました。


 だけど私はどんなご挨拶をしたらいいのかわからなくて、ただフィンリー様をお守りくださいとしか言えませんでした。せめて、陛下を怒らせませんようにと。


 ベイラールの屋敷には、どなたもいらっしゃいませんでした。公爵様はご公務でお城ですし、グレース様は……毎年、この日だけはおひとりで外泊されるのだそうです。


「これが、俺と兄さんの母上ですよ。綺麗でしょう」


 公爵家の歴代の当主や家族の肖像画が並ぶギャラリーに案内され、最も入り口に近いところに、それはありました。


 ステンドグラスのような輝きの緑色の瞳は、テオ様にそっくりです。ダークブラウンの髪は理知的で、こちらを向いて微笑む表情に慈愛が満ちていました。


「顎のラインがフィンリー様そっくりだわ」


「……義姉さんは、ベイラールの呪いについてはご存じですよね」


「待って、なにその怖い話。知りません、なんですか?」


 びっくりしてテオ様を振り仰げば、彼は頭痛を耐えるみたいにこめかみに手をやりました。


「はー、兄さんそんな大事なことも話してなかったんですか。我が家に生まれる男子は、ある程度の年齢になると死ぬんですよ。だから必ず男児はふたり産めって言われてるし、父の弟も確か6歳のときに亡くなったとか」


 よくある話といえばよくある話です。現代ほど医療も発達していませんし、後継ぎが必要な公爵家なら、なおのこと男子は大切にされていたでしょう。


 それに、私に話していない理由もよくわかります。子を作る予定がないからです。


「そんな恐ろしい話が……。でもフィンリー様もテオ様もご無事で何よりですわ」


「母が代わりに逝ったのかなって俺は思ってるんですけどね。でも何があるかわかんないからって、俺も当主候補として育てられてるの納得いかないんですよね。こんなどぎつい修行させられたって、兄さん健在だしさー」


 つらつらと文句を言いながらも、家族愛の滲む笑顔のテオ様の横で、もう一度お母様の肖像画に目をやりました。


 フィンリー様の瞳も、緑色なのかしら……?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ん? チューリップ?
[良い点] ん? そうか! フィンリーの瞳の色って、まだ明らかになっていないんだ。 ということはひょっとして、あのときアレをチョイスしたのは……。
[一言] テオにも幸せになってほしいぞ( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ