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SS×SS 6月8日(日)和沙「一か八か?」

一周年アンケートのお礼SS×SS(ショートストーリー×サイドストーリー)です(*'▽')

和沙に1票ありがとうございました!


 ズラリと並んだ令嬢、令息の名前。

 それは小さな頃からよく知っている名前ばかりだったけれど、今こうして見ていると、昔のようにただ純粋には見れないものだな、と思う。


「これは取引先。これは下請け会社。こっちは名家のご令嬢。こっちは……遠縁か」


 いつからだろう。こんな風に彼らのバックボーンを意識するようになったのは。

 物心ついた頃には、彼らの顔をパッと見た時に会社名が浮かぶようになっていた気がする。

 初めはそんな自分に戸惑っていたけれど、その時僕を見てヘラリと表面だけの笑顔を貼りつけて近づいてきた少し年上の幼馴染を見て、すぐに「ああ、向こうも同じだな」って分かったけどね。

 だから罪悪感なんて感じなかった。

 向こうだって、僕のことを篁の和沙さん、とか見てるんだろう? ならお互い様じゃないか。もっとひどけりゃ篁の3番目、なんて思われてるかもしれない。

 中には、笑顔で近づいてきたものの、僕の名前がなかなか出ず、苦肉の策として名字で会話を続けようとしてるヤツもいたんだから。


「この中に、誰が紛れてたっていうんだ?」


 出席者は男女合わせてざっと60名。

 この中に、あの常にクールな鷹臣が探している人間が紛れ込んでいたという。

 しかも、女だ。

 女嫌いで有名な鷹臣が、女を探している。

 それにしても……鷹臣も幼稚部から藤ノ塚で、僕と同じように参加者全員をしっかりと覚えているはずなんだけど……。

 予備の招待状から抜き取られた1通――それは一体誰の手に渡ったんだろう。

 じじいに聞いても答えてはくれないし、じじいが答えないものを秘書軍団が答えるはずもない。

 なにせ、主人はじじいのみ。それ以外は全て同列と言い切る奴らしか、じじいの秘書にはなれない。つまり、僕がいくらじじいの直径の曾孫であっても、奴らからしてみればその辺の不良たちと変わりないってことだ。


「それにしても……。あ~あ、面倒な話だよね」


 ティーパーティーの招待者リストをもう一度目をやると、僕は大きくため息をついた。

 リストに並ぶ見慣れた名前の中には、今までと違う感情が浮かぶ名前がある。

 両親や両方の祖父母、あとはとても優秀な兄ふたりが候補に挙げたという、僕の婚約者候補者。その数、実に8名もの候補者がこの中に入っている。

 このパーティーの本来の目的は、候補者と僕の親交を深めるものだったのだ。

 別に、驚きはしない。

 父に、母に、そして兄たちに、代わる代わる彼女たちの話を聞かされれば、そうだろうなとは思っていた。


「和沙、週末に一ノいちのわたり家の別荘に招待されたんだが、一緒にどうだ?」

「あらあなた。まさか抜け駆けじゃないでしょうね? この週末は二岡さんの新店舗オープンパーティーの日よ? 和沙そっちに行くわよね?」

「お父さん、お母さん。その日は七瀬家の創立記念80周年パーティーがあると先週お話したじゃありませんか」


 高等部への進学が決まってから、終始こんな感じだ。

 皆がそれぞれのビジョンを持っているようで、全員違う女性を勧めてくる。

 だけど僕が乗り気じゃないこともあって、とうとう強硬手段に出たわけだ。

 候補者全員を招待したから、ちゃんと会ってみなさい、って。


 父が選んだのは、一ノいちのわたりマリア20歳。不動産王の孫娘で、藤ノ塚大学在学中。一ノ渡グループは、わが家最大の取引先の不動産会社。篁グループの代表である父が選びそうな相手だ。

 母が選んだのは、二岡園子22歳。宝石商の一人娘で、藤ノ塚大卒業後、父親の秘書をしている。宝石に目がない母のことだ。きっと相手からのアプローチがあったんだろう。

 祖父が選んだのは、三田みた小百合16歳。華道家元の孫娘で、藤ノ塚学園高等部の1年のはずだ。多分、藤見茶会なんかで会った時があるはずなんだけど、なにしろ彼女は良くも悪くも控えめすぎて印象にない。確か、家元と祖父は古くからの友人同士だったはずだ。友情の再確認に、孫を使うのはどうかと思う。

 祖母が選んだのは、四阿あずまや恵以子20歳。映画会社の孫娘だ。祖母は若い頃、女優だったそうだから、その縁だろう。

 母方の祖父が選んだのは、五十嵐陽子17歳。地方の大地主の娘だ。藤ノ塚の同級生で、この中では唯一顔なじみでもある。とは言っても、彼女はいつも九鬼や七瀬に引っ張られ、おっとりニコニコとついていくイメージだ。顔なじみではあるけれど、正直言って興味はない。どうも五十嵐の祖父は、母方の祖父の故郷の友人だそうだ。――男は年を取ると、友情の確認がしたくなるのか?

 母方の祖母が選んだのは、六郷とくごうしづえ25歳。高級エステチェーンの娘だ。自社の広報担当としてキャリアを積んでいる。祖母は美容に関心が高いと思っていたが……まさか、会員なのかな? とっくに還暦は過ぎてるんだけど……。

 兄その1が選んだのは、七瀬愛梨15歳。九鬼や五十嵐の友人でもある七瀬の妹。なんと藤ノ塚学園中等部の3年だ。兄が言うには、これからは化粧品メーカーが伸びるそうだ。――これからはって……今更だろう。そんなの随分前からだ。

 そして兄その2が選んだのは、八木友美ともみ16歳。両親が有名俳優で、藤ノ塚と並んで人気の聖マリアンヌ学院高等部1年生だ。彼女の両親は長く篁グループのCMに出ているからな……。


 そこでふと疑問が湧いたのは、当然だと思う。


(じじいが絡んでない……?)


 どうしてだ?

 こういう話には真っ先に口を挟み、しかも自分の意見で他をねじ伏せそうなものなのに。

 怪しい。どう考えても怪しい。

 実質的な婚約者候補との顔合わせ日でもある、ティーパーティーの招待状をくすねていることを考えると、やはりじじいの行動は腑に落ちない。


(ちょっと探りを入れてみるか……)


 わが家では、毎日朝食の場で、執事が家族全員の予定を話すことになっている。

 両親も兄も、休日とはいえ予定は詰まっており、慌ただしく家を出て行ったが、じじいは高齢であることもあり、あまり用事を詰め込まないように秘書がセーブしている。

 じじいの居住場所は渡り廊下で繋がる離れの日本家屋で、今もそちらにいるはずだった……んだけど。

 階下に行くと、玄関の前には車が横づけされており、そこに控えているのはじじいの秘書のひとりだった。


「あれ? 今日、おじい様はなにもご予定がなかったはずだけれど……」

「急遽、ご予定が入りまして、お出かけに」

「どこに行くの?」

「――わたくしの口からは申し上げられません」


 やっぱり、口を割らないか。

 さて、じゃあどうしようか? そんなことを考えていると、当の本人が現れて、やけにのんびりとした口調で話しかけてきた。


「おお、和沙じゃないか。どうだ。学園は順調かの?」

「ええ。とても充実した毎日を過ごしていますよ。おじい様はお出かけだとか」

「ああ、デートじゃ」

「は?」


 やばい。今素が出た。

 でもそうなっても仕方がないじゃないか。じじいもうすぐ90だろう! デートってなんだデートって!


「ど、どなたとですか?」

「可愛い可愛い女子高生じゃよ」

「はっ!?」

「そうじゃ。お前も今日は暇なんじゃろう? 一緒に来るか」

「えっ? ひ、暇ですけど……」


 そう。いつもなんだかんだ色々予定を入れられたり忙しいのに、今日はなぜか何もない。

 なぜだろう……?

 視線を感じて顔を上げると、目の前でじじいがニヤリと笑った。


「一緒に来るなら、皆がお前に押し付けようとしている8人の婚約者候補、儂の力で押さえつけてやらんでもないぞ?」


 ――罠だ。

 僕が今日なんの予定もないのは、じじいの罠だ。

 僕の婚約者になるといえば、篁グループの一員に加わることだ。

 この会社をここまで大きくしたのはじじいだ。そのじじいが、この件に関して関心がないはずがない。

 そして、なんともずる賢いことに、両親たちがお互いを牽制しあっているのをいいことに、こうして隙をついてくる。

 じじいのこういうところは本当に好きじゃない。

 でも、だからこそこんなじじいが誰を選んだのかはものすごく気になる。


「――婚約者は、僕の意思で選びます」

「それがいいじゃろう。今の世の中、政略結婚なぞ流行りではないからの」

「ではなぜ、今日その方に僕を会わせようと……?」

「儂が他の婚約話を押さえつけてやろうとただ言っても、お前は信じんだろう。ならば、相当の対価としては妥当ではないか? ほれ、一か八か、じゃ」


 それ、使い方違うだろう!

 こういう人で遊んでいるようなところも本当にムカつく。

 でも、僕はじじいがこうして会いに行く人物が一体誰なのか、それを知りたい気持ちの方が大きかったんだ。


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