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5月26日(月)勝手に話を進めないでください

 疲れた……。

 頭を使いすぎて疲れるってなかなかないよ……。

 無事、試験が終わりました。すっごく疲れた。

 これって、世間の学校で言うところの中間試験の時期だよね。それを1日でやりきりましたよ。

 6時間、びっしり試験です。

 昨日お出かけした手前、成績を落とすわけにもいかなくて、めっちゃ集中して挑んだらさすがに考えすぎてぼ~っとする。

 だいたい、中学の時も定期試験っていうのは数日に分けてやってたと思うんですけどね? なんでこの学園では1日でやっちゃうんだろう。

 まぁその分、この日さえ耐えたら1日で解放されるけど。

 中学の時は3日位にわけて試験があったんだよね。だから、1日目が終わったところで気持ちは休まるものでもなく、結局早く帰ってもやることは試験勉強なわけで……う~ん、じゃあこれでいいのかな?

 そんなことをぼんやりと考えていると、同じように疲れた顔をした茅乃ちゃんが帰る前にラウンジでお茶でもどう?と誘われた。

 勿論乗るよ。今は甘いロイヤルミルクティーなんかが飲みたいね。

 一緒に丞くんたちも誘ったんだけど、丞くんは先輩に用事があるとかで珍しく硬い表情で教室を出て行った。

 風斗くんとマイケルはというと……グッタリとしながらも丞くんに手を振っている。勉強が苦手なふたりは、まるで魂を抜かれたかのように机に突っ伏していた。

 風斗くんはなんとか教壇前の席から逃れたいと頑張ってたようだけど……この様子を見る限り、手ごたえは……あまり良くなさそうだ。

 ――私も人のこと言えないけど。


「ふぅ……。あ~疲れた。茅乃ちゃん、試験どうだった?」

「なんだか先月よりも、手ごたえがないの……。色々出かけたりして勉強に身が入らなかったかしら……」


 ぐはっ。

 それを言わないでもらえますか……。ああ恐ろしい……。

 昨日の巴さんとのお出かけもそうだけど、なんだかんだ理由をつけて週末1日はどこかに出かけてた気がする……。考えたくないけど。


「でも……聞いてたより範囲広かったわよね?」

「あ~、中間試験的な意味があったのかもね。先月の範囲も入ってたもん!」

「ちゅうかん……?」


 あ、そうか。茅乃ちゃんはずっと海外だったから日本の学校の試験システム知らないんだ。

 てことは、マイケルも?

 7月には期末試験があるからもっと範囲広くなるし……茅乃ちゃんなら、あらかじめ知ってたら大丈夫だろうけど、マイケルは……。まだグッタリとしているマイケルを見ると、ちょっと心配だけど、人のこと言ってられないよね~。私もこれからはもっと計画的にしないとな。

 でも今はこの開放感を楽しもう。

 明日からは交流会だし……。

 そういえば、学年の壁を越えたグループ活動をするんだっけ。

 藤見茶会では、諏訪会長や和沙さん、たっくん争奪戦が水面下であったらしい。

 結局、それらはすべて失敗に終わったんだけど、たくさんのテーブルにピンクレモネードが並んだことや、その後の茅乃ちゃんへの態度を考えると、ファンの間はかなりピリピリしていたんだろう。

 そうなると、交流会で是非リベンジ!って考えるのが普通だよね。しかも、宮森先輩がいち早くたっくんと同じグループになったもんだから、皆の焦りようったら無い――らしいよ。私たちは全然知らなかったけど。

 なんと、これを教えてくれたのは風斗くん。

 意外とこういった学園の情報に詳しかったりするんだよね……。

 そういう意味では、マイケルも風斗くんの情報は有難いのか、ふたりの距離が縮まるのは早かった。


「多分、丞が呼ばれたのって交流会のグループ分けのことだと思うぜ」


 これもまた、風斗くんの情報だ。

 なんでも、くじ引きになったらしいよ。


「でも、諏訪会長や和沙さ……篁先輩と同じグループを狙ってるファンの子たちだけでしょう?」

「それに大和先輩な。1年と3年のグループは決まってないから。ま、俺らのグループは巴さんと一緒で決まりだろ」

「トモエ? それは誰?」

「新聞部の部長だよ。インタビューで会ったでしょ。丞くんのお姉さんなの」

「オー! あの綺麗な人! 丞のおねーさん?」

「あの人はダメだからな!」


 マイケルが巴さんを褒めた途端、風斗くんが噛みつく。

 巴さんはモテるからなぁ……でも風斗くん。噛みつく相手はマイケルじゃなくて、脳筋仲間の松丘くんだと思うよ……。昨日のことを思い出して、私は思わずため息をついた。

 丞くんが戻ってきたのはその時だった。


「お、丞。お疲れ~。なんか飲むか?」

「いや……。のどか、ちょっといいかな」

「え? あ、うん」


 丞くんの表情が硬い。なにかあったのかな?

 よほど人目が気になるのか、丞くんはラウンジから離れてずんずんと先を歩く。その間、丞くんは一言も発することがなかった。

 ようやく足を止めたのは、人気ひとけのない特別教室の廊下だった。

 なんでこんなところに……2人きりで静かな放課後の廊下……これはひょっとして!? そんな風にちょっと期待してしまって胸が高鳴った。


「のどか。大和先輩となにかあった?」

「えっ?」


 なんだそれ! 私のトキメキ返せ!


「なにもないよ!」

「えっ……。でも……大和先輩は君と一緒がいいと……」


 キィー! たっくんどこまでもいまいましい!

 このシチュエーションにうっかりドキドキ期待させて!


 ……うん? 一緒がいい? ナニガデスカ?


「交流会のグループ分け……くじ引きって話になっていたんだけど、大和先輩が僕らと同じグループになると言っていて……。理由を聞いたら、のどかのことを話していたから……」

「えっ! なにそれ!」

「最近、ランチもずっと一緒だったし、もしかしてその……そういうことなのかなって……。僕のことばかり押し付けて、のどか誰にも言えなかったんじゃないかって……。ごめんな、気づいてやれなくて」


 ちょ、ちょっと待って!

 先走ってる! かなり先走ってるよ! しかも異次元空間走ってるよ!

 一体それなんの話だよ! ランチ確かに同じ場所にいるけど、それだけじゃん! それ丞くん知ってるじゃん! 同じ室内にいるってだけで話したりしてるわけじゃないじゃん!


「何もないよ! なんのことかサッパリ分からない。どういうこと?」

「うん。そこは察してあげてくれって言われた。のどかは混乱するだろうからって。大和先輩、僕よりものどかに詳しいな。なんだか友達としては寂しいよ」

「はぁ!?」

「だから……この話は受けることにした。会長もいるから、茅乃ちゃんのことを考えると複雑だけど、自分のことしか考えてなかったなって、僕ちょっと反省してるんだ。皆にもなかなか言えないって、その気持ち分かるよ。だからって言っちゃあなんだけどさ、僕には話してよ」


 なに? なんなんだこの展開? あまりの蝶展開に、ポカーンとなっちゃうんですけど。


「えっと……。つまり、なに?」

「えっ? だから……交流会、2年生は大和先輩と一緒だから」

「は?」

「諏訪会長と、篁副会長も」


 な、なんですと!!



 そこからはどう学園を出たか分からない。

 してやられた感でイッパイで、事の真相を問い詰めなければと急いでおじいちゃん家に向かった。

 確かに、新聞に訂正記事を書くようには言われたよ。でもさ、だからといって、この思わせぶりな説明は無くないか?


「あら、のどかちゃんも練習? 熱心ね」


 笑顔で綾さんが迎えてくれた。のどかちゃん“も”ってことは、やっぱり来てるか……。完璧主義者が、交流会前日に練習しないはずがないと踏んだ私は間違ってなかった。


「来たか。よし、練習するぞ」

「なんであんなこと言ったんですか!」

「なにがだ?」

「丞くんにあんな思われぶりなことを言って……! 私が先輩のこと、す、好きってことになってるんですけど!」


 ちょっと! 顔しかめるの止めてもらえませんか! こっちだって迷惑だっつーの!


「そんな説明はした覚えがないが」

「そう受け取られたらそんな言い訳通用しません! 今すぐ誤解を解いて、グループ解消してください!」

「それは困るな。俺は完璧主義者なんだ。完璧にするには、練習と同じ環境は大事だ。それにはお前も含まれている」


 いやいや! そこに私の意思はないから!


「だが、そうか……そうだな。その手もあるか」


 いやいや、なにが!? なんでひとりで納得してるの?


「そうだな。では、お前とそういう仲だということにしよう。宮森も諦めるだろうし、ふたりで厨房を使ういい理由づけにもなる。結果、料理下手という誤解も解けて一石二鳥だ」

「は?」


 何言っちゃってんですか? この人。

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