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5月19日(月)偽物が現れました

 土曜日は茅乃ちゃんがレセプションパーティーで着るドレスを買いに、一緒にショッピングして午後にはくまのカフェでお茶をした。

 制服をオーダーするお店は生徒によって違っていて、茅乃ちゃんは寮から近いお店を利用していた。普通、制服をオーダーするお店って学生向けだからカジュアルな印象だけど、そこは藤ノ塚。奥や上階にドレスやそれに合わせた靴、バッグやアクセサリーなども買えるセレクトショップになっているのが殆どなんだって。

 私が買ったお店は、入学前に家に届けてくれたからお店には行ったことないんだけど、これからの学園行事なんかも考えたら、一度行ってみた方がいいかもしれない。

 カルテのような顧客リストには細かくサイズや好きな色、好みのデザインなどが書かれているそうで、ある程度伝えると、数通り揃えて見せてくれるのだそうだ。そのため、卒業してからもごひいきにする人がいるんだとか。

 学園のある街全体が潤う、いい商売ですな……。

 ちなみに、茅乃ちゃんが選んだのは清楚な茅乃ちゃんの魅力を引き立てる淡いパープルのドレス。シンプルだけど柔らかな素材が華奢な茅乃ちゃんの体のラインに沿ってひらひら揺れて、すっごく綺麗だった!

 日曜日はパパもママもお仕事がお休みだったので、久しぶりに3人でお買い物に行ったんだよ。

 この日は、レセプションパーティーで私が身に着ける靴やバッグを見にね。

 ドレスはおじいちゃん家のクローゼットから見つくろったけど、それに合う物が、手持ちの中にはなくてね……。

 ママがやけに張り切って、あっちへこっちへと何時間もかけて移動したから疲れたけど、やっと納得のいく物が買えた。とはいっても、納得してくれたのはママだ。私はもっと早く手を打ちたかったんだけどね……。それで、制服を買ったお店をもっと利用すべきだな、と思ったわけだよ。

 ちなみに、白銀デパートにも行った。私が知ってるくらいの高級ブランドがたくさん入ってる、いかにも豪華って内装に圧倒される大きなデパートだった。

 でもね……確かに、通りの向い側にドドーンと建つゴールドバーグデパートの大きさときたら……! 公開前なのでまだ柵で覆われてたけど、白銀デパートの中でも何度もゴールドバーグの名前を聞いたよ。期待度も高いんだねぇ……。


 まぁ、そんなこんなの充実した週末を送っていたわけです。

 でもね、今日学園に来たら、とある人物の話題で持ちきりだった。

 なんだか学園全体がざわついているような、そんな落ち着かない空気を感じる。

 ラウンジでも、声を抑えてひそひそと話をしてるんだよね。なんだろう。気になるじゃん。だってさ、その子たちが結構な割合で新聞を持ってるんだもん。


「なになに? なにかあったの?」


 私の問いかけに、茅乃ちゃんは首を傾げる。どうやら茅乃ちゃんはよくわからないみたい。すると、その隣で高熱から復活した丞くんが話し出した。


「大和先輩が、新聞に自分のデマ情報を流した人物を捜してるんだ」

「え?!」


 その言葉にドキンと心臓が飛び跳ねる。

 さ、捜してるってなんで!? 大した情報じゃないじゃん! 料理が苦手なんて結構多いでしょ。自慢じゃないけれど、私も得意じゃない。自信があるのは、あま~い卵焼き。まぁ、これはママがあまり甘い卵焼きを作ってくれないっていうだけだけど……。

 いやいや。そんな脱線してる場合じゃないってば。


「だって……匿名希望の人でしょ? 巴さんだってその人のこと知らないって言ってなかった?」


 私は自分に言い聞かせるように言葉にした。

 メアドだって、誰でも取れるようなフリーアドレスだ。メールアドレスも、人物を特定できるような文字は入れてない。名前はおろか、誕生日っていうわかりやすいのなんてもっての外。

 ええ、私、メアドtokumeikibouにしましたから! 抜かりはないはず!

 うん。だい……大丈夫な、はず……。

 ひぃぃぃ。でも怖い。


「姉貴にも聞いたらしい。でも、守秘義務が~っていつものアレで、埒があかないとふんで、僕のところにも来たよ。のどかも何か聞かれるかもしれない」

「えっ!」

「パーフェクト超人と言われてきた大和先輩だからね……。自分でも常に完璧を求める人だけに、気に入らないんだろう」


 え~……そんな面倒くさい人だったんですか……。早く言ってよ丞くん……。

 あ~あ……こりゃ、残りひとりの新聞部員として、私もたっくんの訪問は避けられないんだろうか……。こりゃ、覚悟した方が良さそうだ。



 って、腹をくくったら来ないってどういうことだ。

 おいおいおいおいおいおいおいおい! 私だってれっきとした新聞部員なんですけど!? こりゃ肩すかしもいいとこだよ! せっかく覚悟を決めて、受けてた等!なんて思っていたのに!

 ランチの場には、たっくんは現れなかったし、その後も姿を見かけることはない。それはそれで気になるじゃないの!

 結局、そのまま放課後になり、その後どうなったのかも気になって、私と丞くんは新聞部の部室へと向かった。きっと、巴さんに聞いたらその後のたっくんの動きを聞けると思ったから。

 すると、巴さんは驚きの発言をしたのだ。


「ああ、それね。情報提供者が名乗り出たのよ」


 は?


 私は混乱した。

 だって、情報提供者は私だもの。前回の諏訪生徒会長の時も、今回のたっくんの件も。それなのに、名乗り出た人がいる?


「まさか、彼女だとは思わなかったわ……」

「えっと……。どんな人なんですか?」

宮森みやもりあおい。2年生よ。あまり目立つ生徒じゃないし、藤ノ塚に入ったばかりののどかちゃんが知らないのも当然よ」

「宮森先輩が? そんなタイプには見えなかったな……」


 丞くんも驚いているようだ。そんなタイプにって……そりゃそうだろう。彼女は偽物なんだから。

 でも……どうして、その宮森先輩は自分が犯人だと名乗り出たんだろう?


「ええと……そんなタイプには見えないって、その宮森先輩はどんな人なんですか?」

「そうねぇ……良くも悪くも、あまり目立たない子よ。幼稚部から藤ノ塚だけどね。お家は出版社を経営しているの。宮の森出版っていうところよ。知ってる?」

「あ。それでか。確か、大和先輩のご両親は宮の森出版社からも本を出していたはずだ」

「そう。結構おつきあいも長いみたいね。それで、料理が苦手だということをご両親から聞いたそうよ」


 む。むむむっ。辻褄が合ってる……! これは……もしかして情報が被った? 私以外にも、たっくん情報が寄せられてたのかな?


「あ~あ……。でも新聞部としては痛手だわ。提供者がバレちゃ、もう情報がこなくなっちゃうじゃない! 唯一の情報屋だったのに!」


 巴さんが机に突っ伏してしまった。

 “唯一”――。

 てことは、やっぱり情報提供者は私だけ。宮森先輩は、自ら偽物になったんだ。でも、どうして?


「匿名希望で情報をくれてたのに、どうして名乗り出たんでしょう? その……大和先輩はそんなにしつこく捜してたんですか?」

「いいえ。そんなことないわ。確かに私にはしつこかったけど、彼が自ら女子生徒に声をかけるなんて、滅多にないことだから、被害に遭っていたのはもっぱら男子生徒ね。宮森さんは、どうやら勝負に出たらしいわ」

「勝負?」

「そう。あんな嫌な男だけど、昔からモテるのよね。でも、女子生徒を誰も寄せ付けなかったわけ。それで、犯人を知っている。とアイツを呼び出したのよ。それで、教える代わりにお願いを聞いて欲しいって取引を持ち掛けたの」


 そりゃ大胆な。そこで偽物とバレる心配とかしなかったのかな……。

 あ、考えてみたら、元々情報提供者は匿名希望で名前を伏せてるんだし、たっくんが捜しまわっても出てこないってことは隠れ続けるつもりだとふんだのかな。


「姉貴。そのお願いってなんなんだ?」

「今月、藤ノ塚山荘の交流会よ。同じグループに入れて欲しいって言ったらしいわ」


 え。それだけ?


「大和ファンは大騒ぎよ。彼は自らの意思で、自分のグループに女子生徒を入れるだなんて、今までなかったから」


 はぁ……。つまりはアレか。情報提供者、匿名希望のおトクちゃんは利用されたってわけだね。

 う~ん……。もにょる。

 利用されたっていうのがね~。なんとももやっとするよね……。でもまぁいいか。これでたっくんの目を逸らすことに成功したし、偽物とはいえ犯人が名乗り出た以上、真犯人の存在には気づくまい。ふっふっふ。

 利用されるだけっていうのもねえ? ここは私も利用されておこうではないですか。


 こうして、見事敵の追及を逃れた私は、意気揚々と速水のおじいちゃん家に向かった。

 今日はパパが日帰り出張に行っていて、ふたりとも帰りが遅くなるらしい。帰りにおじいちゃん家に寄るから、待っているように言われたんだよね。

 でも……そこには罠がありました。


「じゃあ、のどかちゃん。第一回、お料理教室を始めるわよ!」

「え? あの……これは……一体……」


 おじいちゃん家では、綾さんが張り切った様子で待っていた。

 聞けば、藤ノ塚山荘の交流会前に、せめて包丁に慣らして欲しいと頼まれたのだと言う。どうやら、なかなか料理を教わろうとしない私に業を煮やして、綾さんに直接頼んで、そこに獲物わたしを送り込んだということだ。


「のどかちゃんは、お料理はなにが作れるの?」

「卵焼き……」

「……ええっと、それは包丁使うお料理じゃないわね……」


 だって! 包丁ってなんか怖いじゃん! スパーンと切れるんだよ! 怖いよ!

 中学の時、調理実習で同じグループの子がザックリと指を切るのを見てから、どうにも包丁は苦手なんだよ!


「えっと、でも大丈夫! 仲間もいれば心強いし、きっと上達も早いから!」

「なかま?」


 その時、玄関の方からピンポ~ンという音が聞こえた。

 ――嫌な予感しか、しないよね……。


「……なぜここにいる」


 やって来たのは、たっくんでした。


 ああ……一難去ってまた一難……とほほー。


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