表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

5月9日(木)撹乱作戦なのです

 なんだかムズムズします。

 居心地が悪いというか、胸がざわつくというか……とにかく落ち着かないってことですよ。


 たっくんはなぜ、私を探しているんだろう。


 これが気になって仕方がないわけです。


 いや、私とは限らないよ?

 限らないんだけど……あの時漏れ聞こえた言葉がどうも自分に当てはまってるように思えてね……。


 ①ティーパーティー参加者(女性)

 ②会場の隅に座っていた

 ③総帥と話していた


 これに当てはまる人物って、他にいただろうか。

 それを昨晩から私は一生懸命に考えているわけです。

 でもね、広い会場にたくさんの参加者、それらすべてを観察してたわけじゃないから、わからないんだよね。

 それに、ひとつ腑に落ちないこともあるんだ。


 それは、どうしてリストに該当者が存在しなかったとたっくんが言っていたこと。


 それって、たっくんはリストの人をひとりひとりを確認したってことでしょう?

 私の前には現れてませんよ?

 私が気づかなかっただけで、どこかで見られてたんだろうか?


 …………いやいや。あんなキャーキャー言われてる人が近くにいたら、さすがに気づくって。


 てことは、私はリストに載ってない?


 どういうことだろう。私は確かに招待状で会場に入ったのに。

 不思議でしかたがない。

 ではここは! 招待状を受け取った経緯をパパに聞くしかないと思うんだ。

 そこで私は、今日は早起きをして朝食のパンにかぶりつきながらパパを待ってるってわけだ。


「おや。おはよう、のどか。今日は早いね」

「おはよう、パパ! あのね、聞きたいことがあるの。和沙さん家のパーティーの招待状、どんなふうにもらったんだっけ」

「招待状? ……ああ、あれはいつだったかな。結構直前にいただいたんだよね。急だなぁと思ったのは覚えているよ」


 うんうん、確かにね。急だな! とは私も思ったもん。


「秘書の方が突然、会社にいらしてね。総帥が是非と仰っているって……」

「……そうなんだ」


 う~ん……それも確か聞いた気がするなぁ……。


「それはそうと、のどか。秘密箱は開いたの?」

「あ、ママ。開いたんだけどねぇ、ブローチじゃなかったんだよ!」

「ん? どういうことだい?」

「古くて小さい鍵が入ってたの。ブローチの石の色が何色なのかなってちょっと楽しみにしてたのに」


 開けるの数日忘れてたけどね。でもやっぱり綺麗な物は好きだから、何色かな~って興味はあったんだよ。ほんと。それが鍵ってそれもほんとどういうことなんだよっ!

 なんか最近、こういうの多いな……。なんかスッキリしない。

 いや、いいんだけどね? あのティーパーティーに参加したことを伏せてる限り、ブローチだったとしてもつける機会はなかったし。


「鍵?」

「……あなた」


 なんだろう。2人の声色が変わった。


「えっと……なに?」

「……のどか。よく聞きなさい。その鍵のこと、誰にも言っちゃダメよ?」

「え……正樹お兄ちゃんは知ってる……。開けるの手伝ってくれたから」


 なんとなく、ここで先生のことは言いづらくて正樹お兄ちゃんの名前を出した。でも、あの後正樹お兄ちゃんに話して鍵を見せたのも本当だからいいよね。


「正樹くん? ……そう……。正樹くんなら大丈夫だと思うけど……。でも、念のため言っておきなさいね?」

「のどか。ティーパーティーでのことをもう少し詳しく聞かせてくれるかい?」


 今度は私が質問攻めに遭いました。



 * * *



 ところで、ランチメンバーが増えました。

 ええ。勿論マイケルです。

 今や茅乃ちゃんはモテモテのハーレム状態だ。

 とは言っても、全員が好き好きアピールをしてるわけではないんだけど。

 諏訪生徒会長は、控えめな態度ながらも話題の豊富さが功を奏して、茅乃ちゃんから上手に話を引き出して会話が途切れることがない。

 マイケルはそれにテンション高めで参加している。どうやら、マイケルと諏訪会長は顔見知りのようだ。

 そしてそんな3人を気にしつつも、会話に入れずじっとりと見つめる丞くん……。

 う~ん……。どうも丞くんは諏訪会長に対して苦手意識があるのかもしれない。苦手というか……畏敬の念にも似たような感情があるんじゃないかな。それは学園の殆どの生徒がそうだけど。

 素敵だのかっこいいだの言っている声はよく聞くんだけど、かと言って積極的に話しかけようとする人も、親しげな人も見たことがない。

 皆、憧れてはいるものの近寄りがたい空気を感じてるってところかな。 

 親しいってここにいる和沙さんやたっくん位だ。あ、今ここでマイケルを加えよう。おお、見事に男子ばかり。こりゃあ、茅乃ちゃんは大変だ……。

 でもそれもまた落ち着くんじゃないかな。現にうちのクラスはマイケルのおかげでだいぶ落ち着いた。世界的にも有名なデパートの御曹司が茅乃ちゃんと親しいということもあって、表面上はとても優しくなったのだ。そう、気持ち悪いくらいにね。

 セレブ社会って本当に怖い。バックボーンしか見てないんだろうか。

 今回は私もマイケルのおかげで浬くんのことを言われなくなったから、有難いと思う反面、怖さも感じた。

 結菜嬢の取り巻きも、どう動くべきか迷っているように見える。

 最初から取り巻きの中でもその他大勢だった子たちは、マイケルの方に舵を切ったみたいだ。でも、取り巻き中の取り巻き、鍋谷さんたちはマイケルに挨拶をし、私たちに対する敵意を出さなくなったけれど、結菜嬢の近くにいる。けど正直……マイケルが気になって仕方がないみたいだ。


「あ~、やべ。足りなかったかも~」


 すっかり脳筋おバカキャラが定着した風斗くんは、空気も読めない子だったみたいだ。おまけに大食漢。

 誰よりもボリューミーなステーキ弁当を買って、周りの空気もお構いなしにかっこんでいたかと思うと足りないとかぬかす。


「これ、あげるよ」


 今日もクラブハウスサンドにしたのだ。

 でもあれこれ観察しながら食べてたらいつもより時間がかかって、まだ半分とデザートが残ってるっていうのにおなかが膨れてきたんだ。でもやっぱりデザートは食べたいからね。

 余っているサンドウィッチを差し出すと、風斗くんは「いいの!?」と嬉しそうに顔をあげ、素早い動きでサンドウィッチを奪い取った。

 ……風斗くんって、悩みあるんだろうか……。


「――は、本当か?」


 デザートのムースケーキを一口パクリを口に入れたところで、たっくんの声が聞こえた。

 いつも抑え気味の静かな声なのに、少しトーンが高くなってそれがスッと耳に入ってきたんだ。

 丞くんは茅乃ちゃんたちに意識が向いてるし、風斗くんは食べ物に夢中だし……ってことで、私はたっくんと和沙さんの会話に意識を集中させた。


「――だよ。ほんと。予備で用意していた招待状の数が合わないんだ。1通だけ」

「1通? じゃあ、その子か……」

「父さんは知らないって言ってるから……。鷹臣が見たって位だから、十中八九じじいの仕業だろうな」


 なんと! 私は予備の招待状でノコノコと出向いたって言うのか!

 いや、まだ私って確定したわけじゃないけどーー!

 いやだぁ。モヤモヤ増幅だ。なんで鍵なの? なんでリストに載ってないのに参加させられたの? なんでその子をたっくんが気にしてるのーー!

 総帥も総帥だ。リストに載ってない私をなぜ招いたのか、そんなこと少しも言ってくれなかったじゃないか。

 はぁ……ほんとに意味が分からない。

 私はチラリとたっくんを見た。

 まぁ……ここんとこ毎日、ここで顔を合わせてるにも関わらず、気づかないんだからこのままティーパーティーに参加したことを伏せてたら大丈夫だろうけど……。それにしても、そんなに分からないもの? 女子としてちょっと複雑だわ……。すると、私はふとあることに気が付いた。

 そういえばあの日、私はウィッグをつけていた。


 はっ!


 てことはアレか! たっくん、君も私をモコモコ頭で認識してるっていうのか! ひどい!


「そろそろ行かなかれば」


 諏訪会長が名残惜しそうに立ち上がった。

 時計を見ると、もうすぐ昼休みは終わろうとしている。

 急いでムースケーキ食べなきゃ! と思ったら、私の手の中にある器は空っぽだった。

 え!? いつの間に食べたっけ? 私全然味わってない! 期間限定の桜のムースケーキだったのに!

 たっくんめ! 私の桜のムースケーキ返せ!


 そんな視線も意に介さず、たっくんはランチボックスを片付けると立ち上がり、私たちには脇目も振らずにラウンジを出て行こうとした。

 ちっ。下々の者の存在なんてスルーですかそうですかー。


「鷹臣。ダメ元でじじい……コホン。おじい様に聞いてみようか。すんなり教えてくれるかもしれない」


 私がじっと見ていたことに気づいて、和沙さんが慌てて口調を変える。

 ふふん、もう遅いよ。かなりふたりの会話には聞き耳立ててたもんね~。


「ああ、聞いてもらえるか。結果はすぐに教えてくれ」

「はいはい。君がそんなに興味を示すなんて……僕も気になるからね。おじい様が口を割らなくても、僕なりに調べてみるよ」


 ま、まずい……。

 それは困るんですが……。いや、どうして困るかは分からないんだけど、なんだかややこしいことになりそうなのは分かるわけで。

 どうしてもんかなぁ……。


 う~ん……。


 結局午後もいい案が浮かばなくて、放課後になって部活に行くと巴さんが目を輝かせて私を待っていた。


「巴さん? どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないわ! のどかちゃんのクラスに転校生が来たんでしょう?」

「あ、マイケルですね」

「そう! そうよー!」


 私と同じクラスって……丞くんも一緒なんだけどな。

 でも私と巴さんの会話にも、丞くんは顔をあげずPCに向かっている。

 ああ……諏訪会長の存在だけでもいっぱいいっぱいだったのに、茅乃ちゃんの過去を知っているマイケルの登場に内心穏やかじゃないんだね……。

 入学式に人懐っこい笑顔で私に話しかけてくれた丞くんだけど、さすがにマイケルに対しては少し距離を置いているんだ。


「ねえ……お願い! マイケルくんに新聞部のインタビュー、受けてもらえないかな?」

「えっと……頼んでみましょうか」

「本当!? お願いするわ!」


 頼んでみる、と言ったら巴さんの喜びようったらなかった。まだOKの返事をもらったわけじゃないんだけどな……。


「良かったわ~。前回部数が伸びたのに、今回学園アイドルの情報がないとなると、また戻っちゃうわ。おトクちゃんも情報は諏訪くんのだけだったのか、あれ以来タレコミはないし……正直焦ってたのよねぇ」


 はっ! そうだ! 巴さんに情報を送ればいいんだ!


 誰のって? ふふふ。勿論、たっくんのだよ。

 自分の情報が新聞に載れば、たっくんだってティーパーティーの謎の少女の正体探しから気が逸れるんじゃない?

 我ながらいいことを思い付いたぞ!


 その日の夜、私は早速巴さんにメールを送った。


 差出人名は勿論、『匿名希望』でね。

 文章は完結にね。変に詳しく書いて、情報提供者を絞られては困る。

 大和鷹臣先輩……と打ちかけて、慌てて消した。これも危ない。提供者が後輩の1年生だってバレちゃう。それだけで1/3に絞られちゃうからね。


 『大和鷹臣さんの弱点は、料理』


 うん、これでいいな。送信……っと。

 これできっと、謎の少女探しに集中できなくなるはずだ。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ