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5月1日(木)予想外の動きなんです

「今日はどうしよっか」

「あー、メシか?」

「そうだねえ」


 う~ん。悩むね。

 というのも、藤見茶会の後からクラスの女の子の茅乃ちゃんを見る目が厳しいわけですよ。それでも、近くに丞くんたちがいるからか、表立って言ってくる人はいないんだ。考えてみると、丞くんの存在って結構大きいんだよね。満場一致でクラス委員長に選ばれるあたり、きっと昔からクラスをまとめるような存在で、皆に頼りにされてるんだろうな。

 なら学食にする? カフェテラスにする? ってことになりそうなもんなんだけども……なんと、上級生までもが茅乃ちゃんを見にやって来てだね……。「千石茅乃って、どの子?」的なね! たまたま私と茅乃ちゃんはトイレに行ってていなかったんだけど、後から風斗くんが教えてくれたんだよね。


「あの……また、ランチボックス買わない?」

「う~ん。いいけど、いい場所あるかな? 昨日の場所だとさ、生徒会の先輩方がいつも使ってるみたいし」


 まあ、ドジっ子たっくんは生徒会役員じゃないけどね! キヒヒ

 それは置いとくとしても、あの場所を学園のアイドルが使っていると知ってて行くのは変に勘ぐられそうだよね。昨日は知らなかったから仕方ないとしても、これに乗じて親しくしようとしてるんじゃないかってさ。こっちは全然そんな気ないのに、そう思われるってなんか癪じゃないか。


「実は、諏訪先輩から誘われてて……」

「はっ!?」


 い、いつの間にそんなことに!? 私がプリンプリンのエビに心を奪われていた時か! そうなのか!?


「でも、それだとまた変な噂がたつんじゃないかな。僕はあまり軽々しい行動はどうかと思うけど」


 珍しく丞くんが厳しい口調になった。こんな硬い表情の丞くんは初めて見る。隣に座っている風斗も驚いた様子で丞くんを見ているから、きっと滅多にないことなんだと思う。


「えっ……あの、お友達になるのって、変なことなの?」


 茅乃ちゃんも戸惑ったようだけれど、どうやら一歩も引く気はないらしい。大人しくても、芯は強いのかも? 自己主張が強いっていう海外育ちだもんね。


「キポ島に興味があるって……だから、今日キポ島の写真を持ってきたの」


 茅乃ちゃんはバッグの中からタブレット端末を取り出した。私もいつかキポ島の写真見せて欲しいなって思ってたけど、それをたった数十分で交渉するとはさすが生徒会長、やりおるな!


「でも……皆に迷惑がかかるなら、私ひとりで行くから……」


 なんだと! そんなの、ひとりでなんて寂しいこと言わないでよ! 私も行くよ!


「私も行くよ! 私もキポ島の話聞きたいし!」

「本当? ……うれしい!」

「俺も行く。ふたりだけより、男がいた方が噂になりにくいじゃん。な、そうだろ?」

「――ああ」


 結局は丞くんの方が折れた。心配なのは分かるけど、いきなり怖くなるからビックリしたよ~。


「今日のランチボックスは何にする? 私今日はクラブサンドウィッチBOXにしようかな~。茅乃ちゃんは?」

「あ……私も同じのにしよう、かな」

「オッケー」


 ポチッとな。はい、クラブサンドウィッチBOXふたつ、予約完了~。丞くんたちはカツサンドセットにするらしいよ。トンカツにエビカツにメンチカツだって。ちょっと惹かれたけど、さすがに重そう……。やっぱり男の子だねえ。

 それにしても……気になりますな気になりますな。諏訪生徒会長は単にキポ島の話が聞きたくて茅乃ちゃんを誘ったんだろうか? この情報化社会に? 今のランチボックスの予約のようにちょちょいっと検索できて、動画も見れるのに?

 私、ピーンときました。これは……アレですよ。 こ い じゃないですかね? 学園のトップが! 王子様の中の王子様が! 盗み聞きしててもボロが出ることのないパーフェクト王子が! 茅乃ちゃんに恋心を抱いてるんじゃないかなってことですよ。ちょっと! 他人事とはいえ、ときめくじゃないの!

 これは……実際に見て確かめねばなるまい。そう、思ったよね。

 それにしても諏訪生徒会長たら……いつの間に茅乃ちゃんと連絡先を交換したんだろう……。


「……のどかちゃん。そろそろ行かないと……次、選択授業よ?」

「あ、そうだね~。じゃ、丞くん、風斗くん、またあとでね」


 一ヶ月のお試し授業を終え、選択授業は今日からが本格的な授業になる。

 私と茅乃ちゃんは勿論、美術。それ以外は行ってもいないしね。美術選択は、お試し期間中に結構色々な人が来てたけど、私たち以外に固定の人はいなかった。もしかしたら、私と茅乃ちゃんふたりだけかもしれないな。それはそれでのんびりできるからいいんだけどね~。

 すると、美術室には意外な人物がいました。


「あ」

「よう」


 え? 


 ちょっと……こんな展開誰も期待してませんでしたけど? ていうか「よう」って言われるような間柄ではないですよね? ていうかほぼ初対面ですよね? まあ私は一方的にあなたのことを知ってますけどね。ええ、あんなことやこんなこととかね!

 それにしてもなんであなたがここにいるんですか松丘浬くん。


「俺も美術にしたんだ。誰も来ないから、まさか俺ひとりかと思ったけど、杞憂だったな。俺、松丘浬。よろしく」

「……よ、よろしく……。千石茅乃です。あの……一度、来たことあったわよね?」

「ああ。よく覚えてるな」

「ええ……あの、とっても賑やかだったから」

「あ~、あいつらな。うまく撒けただろ?」


 真っ黒に日焼けした精悍な顔でニカッと笑う。すると少し大人びた印象が崩れて年相応の幼さが垣間見える。

 ああ、人気あるのわかるなぁ。この人の笑顔、すごく明るくて太陽みたいだ。

 この人なら同世代のお友達と等身大の恋だってできそうなのに。どうしてあんな辛い恋をしてるんだろうなぁ……。そんなことを考えていると、浬くんが突然こっちを向いた。


「君は?」

「はっ?」

「名前。これから選択授業俺ら3人だけだしさ、仲良くやろうよ」

「あ、小鳥遊のどか。よろしく」

「ふ~ん。――のどかちゃん、か。よろしくな」


 嫌だよ! 私よろしくしたくないよ! 親しくなったら板挟みになっちゃうじゃ~ん!


 とは思ったものの、浬くんは見た目の印象通り、とても快活で楽しい人で。大人しめな美術の先生さえも巻き込んで、選択授業はとても楽しいものになった。


「……松丘くんて、楽しい人ね」

「ほんとだね~。人気あるのもわかる!」

「お~い。遅いぞ。メシ行こうぜ」


 おっと。だいぶ待たせてしまったみたいだ。風斗くんが途中まで迎えに来てくれた。手には予約していたBOXがある。もらってきてくれたみたいだ。ありがたいありがたい。


「なあ……今出てきたの、浬か?」

「うん。なんかね~、選択授業一緒になったんだ」

「マジか。なんかあいつの取り巻き、売店前で浬はどこだって騒いでたぞ」

「あ~、取り巻きを撒くことに成功したって言ってたけど……」

「で? のどかや千石と一緒なわけ?」

「うん」

「――他には?」

「……他? 他って?」

「なんと、美術の選択授業、私と茅乃ちゃんと浬くんだけなの。少ないだろうな~とは思ってたけど、まさかこうなるとは……」


 すると、風斗くんが盛大にため息をついた。

 む。なんだよそれ。


「お前さ~、ただでさえ生徒会長が千石にちょっかいだしてて注目されてるところに、浬と選択授業一緒とか、また変なのに絡まれるぞ?」

「な、なんでよ! 私と茅乃ちゃんは最初から美術って決めてたんだもん。向こうが後から勝手に来たんだもん!」

「それが浬の取り巻きに通じると思うか? ただでさえ変な注目浴びてんだから、気を付けろよ」


 気を付けろって、どうしろってのさ!

 そんなこと言われたら、諏訪生徒会長と和沙さん、たっくんが待ってると思うと、足取りが重くなるじゃない……。むー。




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