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4月18日(金)やっぱり残念な人でした

 茅乃ちゃんに、アプリに藤見茶会の詳細が出ていると聞いたことを思い出して、私はアプリを起動させてみた。


「おお。本当だ~」



【藤見茶会の開催について】


『4月28日(月)PM2:30 藤ノ塚学園 藤棚庭園にておこないます。


 藤見茶会は、毎年春恒例の1年生と2年生の交流の場です。ホストとしてもてなすのは1年生の役割です。各グループでお茶とお菓子を用意し、ゲストである2年生の先輩を迎えてください。

 1年生と2年生は5人前後のグループを作り、4月21日(月)までの担任に報告をしてください。


 雨天の場合、日程を変更します。


  実行委員 藤ノ塚学園高等部 生徒会および文化部役員』


 だいたいは丞くんに聞いていた通りだった。

 彼の話通り、今日のホームルームでは藤見茶会についてグループを作り、担任に報告するようにとの話があった。

 私はこれで気が付いた。うちの担任は、どうやら鈍いのではなく、気づいておきながらなるべく面倒事には関わりたくないという考えが先に立っているらしい。教師がこれでいいのか。

 そんな担任の先生は、自分に報告するように、とか言いながら、その視線は丞くんに向いていた。それを感じ取ってか、丞くんは小さくため息をつくと「僕がまとめて先生に報告しますよ」と言った。丞くんは空気の読める子だ。そんな丞くんの渋い顔をしたのは、副委員の山科さんだ。でも、彼女も丞くん並に空気が読める子。結局は自ら協力を申し出、担任は満足そうに教室を出ていった。

 ご、ごめんね山科さん。でも助かります! 助かります!

 その後硬い表情の山科さんが丞くんの席にやって来た。


「俺は如月と小鳥遊さんと千石さんと組もうと思ってるけど、そっちは大丈夫?」

「――ええ、多分」


 チラリと振り返った山科さんの視線を追うと、そこにはクラス委員を決める際に丞くんを推薦していた子たちがなにやら相談していた。

 中心には、彼女たちが副委員に推薦しようとしていた鍋谷さん。そこに3人の女子生徒が集まっていた。


(……? 一緒のグループ作るのかな? ――にしては、空気が悪いか)


 ふふふ。私も空気が読める女子高生なんですよ。

 鍋谷さんたちは、相談しながらもしきりに前方に視線を投げかけている。教室の前方では、結菜嬢にも何人かが声をかけていた。


(ふ~む……。内部生は内部生で、色々あるんだね……)


「……まぁ、なんとかなるでしょ」


 山科さんはそう言うと、鍋谷さんに声をかけた。結菜嬢に話しかけたグループは、それに反応して振り向く。でも結菜嬢が振り返ることはなかった。


(取り巻き同士が牽制しあってるってことか……)


「結菜嬢と一緒のグループになることって、そんなに重要なの?」

「う~ん……」


 丞くんは困ったように口を歪めた。なにか言いにくいのかな?


「真白結菜がいることによって、諏訪生徒会長やたかむら副会長あたりとお近づきになれるかもしれないって打算が働いてんだよ」

「風斗くん……さすがにそんなことはないでしょ。取り巻きは結菜嬢を慕ってるんじゃないの?」

「幼いころから見てるけど、そうは思わねーな。真白のとこの白銀デパートは、確か諏訪会長と篁副会長の家が顧客なはずだ」


 顧客ってどういうことだろう……?

 デパートは誰でも好きなところを利用できるし、確かに白銀デパートは高級デパートとして有名なデパートだけど、駅前には他にもいくつか大きなデパートがあるけど。ひとつのデパートしか使ってないってとても不便な話だよね。

 すると、私が理解できていないことを察したのか、すかさず丞くんがフォローに入ってくれた。


「ああ、外商だよ」

「がいしょー?」

「大口の顧客に対して、家や会社にカタログや商品を持っていって商品を売る部門だよ。デパートに行かなくてもそれで買い物ができるんだ。白銀デパートの100周年記念パーティーで彼らの姿を見たことがある。多分会社が白銀を使ってるんじゃないかな」


 へえ~。出向かずに買えるだなんて便利だね。そういう買い物の仕方もあるなんて初めて知ったよ。


「俺も高等部に進学したら、催事に顔を出すように言われてる」


 丞くんも面倒くさそうに言ってるけど、それって相当お金持ちってことなんじゃないの? それにしても、またなんか新しい言葉が出てきたけど催事ってなんだろう。


「特別な商品を集めて外商の客を呼ぶんだよ。ホテルの食事なんかに招かれることもあるし、まあ高等部からそんな付き合いに連れていかれるのも増えるってこと」


 う~ん……それってつまり、その家のお仕事の関係で、藤ノ塚の他の生徒に比べて結菜嬢は生徒会長や和沙さんに対して近い位置にいるってことだよね? 取り巻きは、それを知っていて結菜嬢の周りにいる……。

 ……なんとも嫌な話だね。


「のどか。何難しい顔してんだ」


 そう顔を覗き込んでくる丞くんは、なんとも思っていないようだ。

 彼らにとっては、そんなこと普通のことで、不思議じゃないのかもしれない。

 セレブって大変なんだな……。

 なんだか遠くに感じた。


「……午前中は試験だもの。あまり大がかりな準備はできないわね」

「そうだなあ。でもまぁ、他のグループは珍しい茶葉やスイーツを取り寄せてでも会長らの気を惹こうとするんじゃねえか?」

「たぶんね。でも俺らは普通でいこう。のどかも、えっと……茅乃ちゃんも、外部生としては初めての試験だから、茶会の準備に時間を取られたくないよね」


 んっ?

 今、茅乃ちゃんと丞くんはなんて言った?

 試験とか聞こえたけど、きっとそれは空耳。そう、空耳。


「あの……のどかちゃん見てないの? 藤見茶会の案内の上に【定期試験のお知らせ】が出てるんだけど……」

「えっ! 知らない! 知らないよ! なにそれ!」

「はぁ? 外部生の説明会でも話があったはずだぞ」


 呆れたように話す風斗くんに、茅乃ちゃんがうんうんと頷いている。

 なんですと! 私、説明会で聞いた覚えがないんですけど!?


「うちでは夏休み期間の8月以外は定期試験があるんだ。でも長期休暇前の期末は範囲が長いけど、それ以外はその月の理解度を確認する試験だからそんなに難しくないよ」

「ほ、ほんとに?」

「うん。授業をちゃんと聞いてたら」


 ――自信ないんですけど!



 * * *



 放課後は茅乃ちゃんと一緒に私の家の最寄り駅にある大きな書店に行った。

 こうして放課後に茅乃ちゃんと出かけるなんて初めてだ。今月の記事に対して、巴さんからOKが出たので今日は部活がない。そこで、読書好きの茅乃ちゃんをここに連れてきたというわけだ。寮の近くの書店はここよりもだいぶ小さいんだよね~。目を輝かせた茅乃ちゃんは、普段はすごく大人しいのに、今は店員さんに質問攻め中だ。どうやら欲しい本がたくさんあったみたい。対応している店員さんは最初茅乃ちゃんの勢いに驚いた顔をしたけれど、今は嬉しそうに茅乃ちゃんの質問に答えている。きっとあの人も本が好きなんだろうな。


「あ」

「あれ。確か……『のんたん』だね?」


 本屋に現れたのは、一度くまのカフェで会った綺麗なお兄さんだった。

 私のこと覚えてくれてたんだ。

 イケメンさんに話しかけられて、私は自然と頬が緩む。全面的に賛成するわけじゃないけど、丞くん達が言ってた『なんだかんだ第一印象は顔』っていうのがちょっぴり理解できた。綺麗な人に覚えられていて、話しかけられるってやっぱり嬉しいよね。


「はい。そうです。ええと……」

「俺は神馬じんばかおる。くまのカフェの常連なんだ」

「そうなんですか。えっと、今日はお買い物ですか?」

「う~ん……恋人を迎えに来たんだけどね」


 ほんの少し困ったように視線を横に飛ばした。その視線の先には、茅乃ちゃんと店員さんがいる。馨さんのお相手が茅乃ちゃんとは思えないし……そうなると、あの人の良さそうなふくよかな店員だんが馨さんの!? おおお! ちょっと意外だけど、この意外さはなんか女子として嬉しいぞ!


「すみません。友達が本について質問攻めしていて……」

「ああ、構わないよ。透子さんはきっと楽しいだろうから。俺が待てばいいだけだから」


 そう言うと、馨さんは目の前の棚から雑誌を手に取った。

 こんな大人の綺麗なお兄さんが読むのってどんな雑誌なんだろう。

 なんとなくそんなことが気になってついつい彼の手元を見てしまった。


「ジュ、ジュモン!?」

「えっ?」

「な、なんですかそのジュモンって!」

「……あ、男の俺が見るのっておかしいよね。ちょっと脚本を担当したドラマの特集記事があったからつい」

「いえ、そうじゃなく!」


 馨さんが持っている雑誌は、表紙にたくさんのイケメンさんが載っている。その中になんと! 脳内ファンタジー先輩の姿もあったんですよ! めっちゃかっこつけてます! これは一体どういうことですか!


「ああ、この雑誌? 俳優とかタレント、あとはモデルとか……今が旬な男性が載ってる雑誌だよ」

「ジュモンボーイっていうのは?」

「この雑誌が発掘した男性たちの総称だね。毎年大規模なオーディションをしていて、そこの出身者はジュモンボーイって呼ばれるんだ」

「な、なんだぁ。ファンタジー的な意味じゃなかったんだ……」

「えっ? ファンタジー?」


 その後、私の説明を聞いた馨さんはおなかを抱えての大爆笑だった。

 そ、そんなに笑わなくても……だって、一般的にジュモンって言ったら脳内で『呪文』って変換されるもんじゃない?

 気恥ずかしさをごまかすように雑誌をめくると、その噂のジュモンボーイが出てきた。


【電撃復活! TAKUMA、空白の1年間を語る】


 え~となになに?


『1年間イギリスに行ったのは、日本に縛られたくなかったから』


 ……は、はあ。


『イギリスを選んだのは、自分のルーツを辿るため』


 ん? 縛られたくないけど、ルーツを辿りたいってなんか矛盾してません?


『1年間で、俺は心の自由を手に入れた』


 ……巴さんにしつこくメールを送り続けてる人の言葉だとは思えないんですけど……。

 

 やっぱりジュモン先輩は残念な人だったようです。


 



 

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