第12話 ………それは…おめでとうございます、でいいんですかね?
よろしくおねがいします‼︎
黒水晶宮の中庭にピクニックシートを敷き、取り敢えずミーシェ達が差し入れしてくれたサンドウィッチを食べ終えた僕達は、やっと本題に入ることにしました。
まぁ、サリュ君に説明するだけなんですけどね。
この世界が乙女ゲームの世界、またはそれに類似した世界であること。
ヒロインは異世界から転移してくること。
攻略対象は僕、ロイゼル君、サリュ君。
悪役令嬢はミーシェ。
僕の目的はミーシェの悪役令嬢シナリオの回避。
そして、ロイゼル君を育てていたのはヒロイン(またはアミル姫)への将来的な生贄とするためだということ。
異世界転生、転移の物語は彼らの世界に多かったらしいですから、サリュ君はひとまず……納得したようでした。
「まさか……乙女ゲームの世界に転生するなんて……」
「あんたはこのゲームのこと知らないのか?」
「知る訳ないだろう。前世の個人情報は思い出せないが、ボクは中間管理職のサラリーマンだったんだ。ゲームしてる暇さえないよ」
「あぁ……ちなみに、前世の個人情報が思い出せないのは、この世界で生きやすくするためじゃないかと、母上が言っていました」
まぁ、前世の記憶が多過ぎると……前世への未練と今世での人生の矛盾で、精神が崩壊する可能性もありますしね。
そこら辺は都合よく調節されているのでしょう。
「とにかく……ボクはどうしたらいいんだい?」
サリュ君の質問も尤もと言えるでしょう。
ですが、それは僕にも答えにくいです。
「まぁ、ぶっちゃけ……ヒロインの行動次第なんですよね。乙女ゲームのシナリオだと、ミーシェが各ルートごとの攻略対象の婚約者ということになってましたが、今は僕の婚約者ですし」
「ということは、ルーク様ルートってことは考えられないのかい?」
「はっきり言って、僕はミーシェに首っ丈なので裏切りません」
「そんな未来のことは分からないだろう?」
「いいえ、断言できます」
サリュ君は怪訝な顔をしますが、僕ははっきりと言えます。
だって………。
「僕はミーシェを愛しています。でも、もしも、僕が強制力によってヒロインを好きになり、ミーシェを裏切ることになるとしたら……僕は殺されますよ」
「………………は?」
それを聞き、呆然とするサリュ君。
僕は恍惚とした笑みを浮かべながら、隣に座るミーシェの頬を撫でました。
「だって、そうでしょう?僕が自らの意思でヒロインに惚れる訳ありません。だって、こんなにもミーシェを愛していて、犯したくて、ぐちゃぐちゃにしたくて、互いの境界線が曖昧になってしまいたいほど溶け合いたいのに、ミーシェを裏切るなんてなったら……それはきっと僕じゃない。何かしらの力に支配されているはずです」
「……………………」
「だから、そうなったらきっと、ミーシェは僕を殺してくれます。だって、ミーシェを裏切るような僕は僕じゃないんですから。僕が他人のモノになる前に、ミーシェのモノであるウチに、ミーシェは僕を殺してくれるでしょう?」
「うん、私以外のモノになるくらいなら殺しちゃいます。そして、死んだ亡骸を大切に愛してあげますね?」
仄暗い光を宿した瞳で、ミーシェは蕩けるような笑みを浮かべます。
あぁ……背筋がゾクゾクする。
なんて可愛いんでしょう?
こんな可愛いミーシェを、死んでも愛してくれると言ってくれるミーシェを……僕が裏切る訳ないじゃないですか。
「だから、僕のルートの可能性があろうと問題ありません。僕とミーシェは互いの骨の髄まで愛し合ってますから。だから、もし互いが互いを裏切るとしたら……きっと、僕達のことだから互いをどうにかしてしまいますね」
僕の言葉を聞いたミーシェはチロリッと舌で唇を舐め、妖艶な笑みを浮かべます。
そして、僕の頬を撫でました。
「うふふっ、きっとそうですね。私が裏切ることになったら、ルーク様は私を殺すでしょう?」
「うーん……どうでしょう?僕は殺すより監禁して、洗脳して、僕だけのお姫様にしたいタイプなので」
「私はそれでも良いですよ?ルーク様がしてくれることは、どんな酷いことでも幸せです」
互いに微笑み合い、指を重ねる。
それを見たサリュ君は……顔面蒼白になりながら、ロイゼル君に聞きました。
「…………あの……」
「分かってる。ちょっとこの二人は互いにヤンデレってるだけだから。頭がクレイジーってるように見えけど、ヤンデレらしいから」
「………………ヤンデレ……」
…………ロイゼル君、その説明はどうかと思います。
ヤンデレは否定しませんけど。
「まぁ……とにかく。母上の話では、ヒロインが小賢しかったり、馬鹿だったり、そのヒロイン自身も転生者の可能性があったりして……ゲームと現実の区別がつかず、ミーシェを悪役令嬢に仕立て上げようとするかもしれないらしいですが、しないかもしれない」
「……………」
「だから、僕の目的は悪役令嬢シナリオの回避ですが……それは先ほども言ったヒロイン次第というわけです。ひとまず、何が起きてもいいように用意している感じですね」
僕の言葉にサリュ君は沈黙しました。
そんな彼に、話を続けます。
「はっきり言って、もうこの時点でかなり状況は変わっています。僕はミーシェとラブラブですし、シゥロとククリがいる。ロイゼル君もルジア様に一目惚れしたでしょうし」
「うぐっ⁉︎」
顔を真っ赤にして撃沈するロイゼル君。
あぁ、やっぱり一目惚れしたんですね(笑)。
「だから、このまま君が動かなくても構いません」
できればヒロインを手玉に取る人材になって欲しいですけど、転生者であるなら無理強いはし辛いですし。
はぁ……またどっかからヒロインへの生贄を見つけないとですかね。
暫く沈黙していたサリュ君は納得したように頷き、僕を見ました。
「……………先ほどルーク様はヒロインの行動次第と言っていたよね?」
「えぇ」
「なら、ボクが動き出すのもヒロイン次第でも遅くないかい?」
「………おや。馬鹿ではありませんでしたか」
「取り敢えず、ボクは君達と一緒に訓練をして、何が起きてもいいように準備をしておこう。君達と一緒にいた方がボクの利益にもなる。それで構わないかい?」
………あはは、予想より良い人材だったようです。
僕はヒロインの行動次第で動くべきだと言いましたが、すべきだと明言していません。
ですが、そう言いながらも僕は今、何もしなくてもいいとも言いました。
敢えて、惑わすようなことを言い……彼がどう判断するかを見ましたが、ちゃんと判断できる人だったようですね。
「君も腹黒ですか?」
「そんな訳ないだろう。ただ、少しばかり賢い程度だよ」
サリュ君は呆れたように息を吐きます。
そして、困ったように笑いました。
「何もしないということはそのままゲームのシナリオに繋がる可能性があるということ。なら、それを回避しようとしているルーク様達に協力するのはやぶさかではない。それに、君は《ドラゴンスレイヤー》の息子だ。仲良くしておけば……」
ぶわりっ……‼︎
冷たい威圧を、何も言わずに放つ。
ガタガタと身体を震わせて、ガチガチと歯を鳴らすサリュ君を見て……僕は微笑みました。
「言っておきますけど、僕の名を……エクリュの名を使おうとしたら、殺しますよ」
サリュ君は言葉を紡げないようで、何度も頷きます。
それを確認して数秒……僕は威圧を解きました。
それと同時にロイゼル君がボソッと呟く。
「…………ヤバい……ルーク様の威圧に慣れ始めてるおれがいる……」
………それは…おめでとうございます、でいいんですかね?
まぁ、とにかく。
こうして、僕達の仲間にサリュ君が増えました。




