一章七幕=休息=
ばあちゃんが亡くなったりして、辛い……
「龍臥くん、この部屋は自由に使っていいから」
食事を終えて、俺は泊まらせてもらう間に使わせてもらう部屋に案内される。
広さは六畳半といったところの和室で、寝るにも生活する分にも十分すぎる広さの部屋だった。それに窓からは自然が見えて、健やかな気持ちになる。
それに嬉しい誤算もあり、蛍光灯など電気を使う品物もある。世界観が世界観だけにないと思っていたけど、あるにこしたことはないので普通に嬉しかった。
加えて別の世界に来て一番懸念だった寝床が確保されるのは大変ありがたいことで、あらためて響さんにはお礼をいう。
「だからそんな気にしないでってば。こっちの都合で呼び出しちゃったんだし、協力してもらうんだからこのくらいはね。まぁできないことはできないからそこは了承してね」
「もちろん。まぁ、俺がほんとに役に立つかは怪しいところですけど」
「自信を持ちなさいよ。テラサイトの騎士連中くらいなら簡単に手玉に取れるんだし、戦力的には申し分ないわよ」
「まぁ、そう言ってもらえるなら……」
「それじゃ、お布団持ってくるからゆっくりくつろいでて」
そう言って響さんは赤い髪をなびかせながら部屋を後にする。
そしていなくなったところで、俺は畳に座って今の情報をまとめる。
一つ、ここはモンスターも存在する異世界だということ。
二つ。俺はここで悪魔憑きと言われる超能力者であること。
二つ、おそらくは近いうちに姫さまを守るために戦が行われるだろうということ。
一つ目はあのピエロのこと、そして騎士連中を見て殿様と話したことで逃れようのない現実として認識した。
加えて二つ目。この世界は俺のように能力を使う人間がいるらしい。ここでは俺のことを見て離れるどころか、せいぜいが少し珍しいくらいの存在、と見ていいと思う。
まぁ助っ人みたいなもんだから勇者として呼ばれた、ということよりは幾分もマシだけど……それでも戦は起きない方がいいと思う。
殿様もかなり怒っていたけど、本当なら民に犠牲を出さないために戦はやりたくないはずだ。
まぁこれも俺の勝手な想像ではあるけど、婚約の話をなかったことにするような出来事があれば話は変わるかもしれない。
例えばそのテラサイトの婚約をさせる予定だった将が死ぬ、とか……
「……これはまだ無理だな。情報が少ない」
もし殺すとしても最低限その将の顔がわからねば、お話にもならない。
俺が現状できることはまず休んで思考をクリアにしてどんな事態にも対応できるようにすることだ。
正直元の世界の家は整理も何もできずにここに来たからどうしたものか、と思わなくもないけどそれよりも目の前の今が大事だ。どうにもできないことはそれ以上できることはないわけだし。
……まぁ、でもこの世界に来れてよかったとは思う。
もう、元いた世界に俺の親類はいない、いわゆる天涯孤独だったのだから。
そして何よりも……いくらか差異はあるけども、また響に出会えた。
別人だということははっきりわかっている。
だけど、本当に響さんは響そっくりで……再会できたと思って思わず涙が出てしまった。
きっとこの考えは誰にもわかってもらえないだろうけど、それでいい。
これは俺にしかわからないことで、自己満足なんだから。
「龍臥くん、お布団持ってきたわよ……って、なに難しそうな顔してるのよ」
「あ、いえなんでもないですよ。それより布団ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃ、今日は私ももう寝るわ。おやすみなさい」
にこり、と優しい笑顔を浮かべる響さん。
それが嬉しくて、同時に悲しかった。
「ええ、おやすみなさい。いい夢を」
感情を押し殺し、部屋から笑顔で手を振りながら去っていく響さんを見送り、過去の記憶が蘇る。
『龍臥くん、また明日ね!』
もう二度と見ることのできないと思ったあの笑顔。
ずっと一緒にいたくて、守りたいと思っていた響と彼女の笑顔は本当にそっくりで……そんな彼女を守ってやれなかった自分が不甲斐なくて、情けなくて、悔しかった。
ズボンのボタンを外して緩め、布団を強いて電気を決して横になる。
そして枕に顔を押し当てて、俺は床についた。




