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迷走記  作者: 法相
六章=決戦=
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六章七幕=疾風迅雷=


 目標の黄金はすでに射程圏内。響きは横を抜き去った際に斬りつけるが全て手応えは薄い。

 響の起こした風圧によってわずかだが動きを鈍らせることに成功していた。

 しかし全ての攻撃で傷をつけたものの、どれも致命傷には程遠いものだった。仮に絶命させてしまえばまた再生されてしまうが、深手を負わせれば作戦の成功率を上げられたのだが、と内心で毒づく。


(さすがに私の動きに飽きたとか言うだけあるわね)


 口だけではない。これが味方や好敵手であれば頼もしさで喜ぶものだろうが、あいにくと敵だ。しかし、それでも響は黄金の注意を引きつけることに全力を注ぐ。

 龍臥によって伝えられた提案は千代の麻痺毒を持つ蛇を黄金に噛ませること。麻痺させて拘束すれば無力化できる算段だった。

 もちろん、成功すると言う保証はない。だがそれでも決定打が存在しえない以上はほんのわずかな可能性でも賭けることが唯一の勝機だった。

 この作戦を成功させるにあたって重要なのは黄金の気を引くために真正面から戦闘して時間を稼ぐこと。

 龍臥もそれをわかっていたからこそ響に伝えることを躊躇っていた。

 当然だ。本来龍臥は彼女を守ると誓っているし、宣言もしている。危険な目に合わせるのは本意ではなかった。

 だが、それでも彼は響にこの作戦を頼んだ。その葛藤をわかるからこそ、そして状況を打開するためにも、そしてなにより大事な友のために陽動を二つ返事で引き受けた。

 誓いや信念は尊きもので、それを貫き通せる人間は本当にすごい人間だと響は思っている。

 そして、だからこそその信念を曲げてまで頼んだ龍臥を改めて信頼と信用を置いた。

 大局を見ずに自らも陽動に出る、などと言えば響は容赦無く殴り飛ばすところであった。けれども龍臥はそれを言わなかった。


『俺にしかできない役目もあります。だから、陽動をお願いします』

(短い間で、こだわりを捨てるべき場所を見極められるようになったんだから偉いわ本当)


 最初に出会った日から響は龍臥に関心を抱いていた。

 異次元道化師が連れてきた別世界の悪魔憑き。そして伝え聞いた響との縁があるかもしれないという話。

 異次元道化師と出会ったのは数年前に彼が盗賊に襲われていたところを助けたのがきっかけだった。

 かつての座学や噂話、伝承として伝えられていた存在を目前にした時、響は特にどうも思わなかった。弱肉強食、自然の摂理、珍しい存在を見れたと感じはすれど捕まえて何かをしようなどとは思えなかった。

 だから向こうからお礼を言われた時、本当に響は驚いた。他の妖で人間と同じ言葉を発することができる存在を見たことがなかったからだ。

 それをきっかけに仲良くなり、時折食糧を分けたり、千代にだけ秘密で会わせたりと秘密の仲間として日々を過ごした。だから、テラサイトとの戦になるかもしれないからもう会えないかもしれない、と伝えた。

 来ない人間を待たせてしまうのは心苦しい、とそんな思いから言った言葉だった。


『私が助けを呼びましょう』


 だからこんなことを言われるのは想定外であった。

 能力を使えば死ぬ、だから響は当初猛烈に反対したがそれでも彼の意思は変わらなかった。

 なんで、と響の呟きに彼は『私がどうしてもやりたいからですよ』とだけ言った。

 響にはわからなかった。根本的に人間と妖は違う種族で、助けなんて期待はしていなかった。ただ、縁を結べた異種族の友達に別れの挨拶をしたかっただけだったのに。

 異次元道化師は能力を使えば死ぬ、それは聞いただけで実際に見たことはないが彼はそれを肯定していた。

 そして、異次元道化師の命と引き換えに龍臥がこの世界にやってきた。


(ありがとう、道化師。アンタのおかげで龍臥くんにも会えてここまで来ることができた!)


 後は死なないでこの戦いを終わらせる。


(速さが足りないなら……上げてやるだけよ!)


 すでに身体にはガタが来始めている。けれどもそんな痛みは、意識の力で無理やりねじ伏せた。

 風がさらに強まり、速度が上がる。


「風速が上がった? この風圧、僕以外には無理かな……」

「言ってろ、クソ野郎」


 限界を超えた最速の風を纏った響は刀を鞘に納め、距離を取って最速最大の一撃を見舞うため、響は一直線に突っ込んだ。

 自身の超超高速度の衝撃で皮膚は裂け、身体中の骨が軋み、内臓も悲鳴を上げている。

 すでに並の悪魔憑きでは視認が不可能。黄金すらも完全に視界に捉えることができない。

 だからであろう既に黄金は風を纏わせた剣を振りかぶっていた。響の知る余地はないがこれで黄金の身体能力の速さにもブーストがかかる。

 ほんの刹那にも満たない時間、振り下ろされた剣と響の最速最強の抜刀術がぶつかり合い、金属の折れる音が響いた。

 折れたのは、響の刀であった。

 一方の黄金の剣は弾かれてはいたが、まだ剣はその手に握られている。


(なんて衝撃だ……! 打ち勝ったけど僕の剣にも今のででかいヒビが入った! だが、あんな速さで動いた以上身体が無事なわけない! ここで殺せる!)


 振り下ろす。今の響が受ければ確実に命を奪えるその一撃。


「ばぁか……!」


 不適な笑みを溢し、左手で響は何かを抜いた。


「何を……!」


 直後に剣に衝撃が走り視線を逸らす。

 剣にぶつけられていたのは、響の刀の鞘だった。狙われた場所は、亀裂の入った場所だった。

 ビキ、と音がする。


「う、そだろ……!?」

 黄金の声は震えており、現実を受け入れるのに時間がかかっている。

 亀裂はさらに刀身に広がっていき、ほんの数瞬後に剣はバラバラに砕けた。


「そ、そんなばかな!? 僕の、僕の宝剣が壊れるなんてあり得ない!」

「二人とも! 今よ!」


 響の声が、二人に行き渡った。


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