六章六幕=歪=
「どこへ行った……」
煙玉によって視界をうばわれたせいで鳳たちを見失った。
戦場で周りが戦闘しているのもあるが、一度見失えば見つけ出すのは少し骨だ。
とはいえ、僕がアイツらに負ける可能性がないのはわかっている。僕が死なない以上向こうに待っているのは確実な敗北。
ふと、手に握る愛剣を見る。
この剣は無銘でこそあるが、曰く付きの代物だった。
テラサイトの領内にある小さな洞窟で長年地面に突き刺さっていた物であり、数年前に力試しに引き抜いたことで僕の地位も名誉も手に入れるきっかけとなった。
これに秘められていた能力は、火・水・雷・風を操る力を使用者に与えると言うこと。
元々僕は悪魔憑きではあったが身体能力だけで他に能力がないものとみなされていた。初陣で殺されたことで死なない能力に気がつけたが、あまり好き好んで死にたくはない。
しかしそれに加えてこの剣による能力によって僕の身体能力は上がり、さらには四つも能力が増えた。
それで僕はのし上がっていった。
僕を馬鹿にした上官は潰し、思い通りになるように動いてきた。そこには当然努力だってしてきた。
表面上は慕われるような顔を作り、基礎能力を高めるために訓練だって培ってきた。
そして気に入ったものは奪う、僕にはその権利がある。
欲しいものを奪うついでに領土を手にいれれば、僕の権力をさらに固めることに繋がる。反王政派も王より発言力が増してきている僕についているから、なおさらだ。
「ま、でも今はそれよりも……前世から持ち込んだ因縁に終止符をうたなきゃ」
あの男がどうやってここにきたのか、正直そんなことはどうでもいい。
ただ僕のメンツをここでも潰しに来たあの男を殺して、終わらせる。
だけど、その前にあいつの両手足を切り落として、目の前であの桂にそっくりな女と忍者を犯してやろうか。
そうすればあいつは、どんな絶望した顔を見せてくれるだろうか。
「……想像するとたまらないなぁ」
唇を舐める。
僕は死なない。完全に絶命すれば身体が勝手に治癒を始めて完治させる。
寿命で死んだ場合はどうなるかは知らないが、少なくとも戦闘という面でこの能力で敗北はあり得ない。
憂いだった片目もさっき死んだことで回復したし、また強くなった。
「早くあの顔を、歪めてやりたい」
だから、出てこい。
僕は早くお前を、絶望に落したいんだ。だから、焦らすな!
と、考えた瞬間だった。
風が吹いた。それも穏やかではない、とびきりの突風。
来た、来た。この風は……桂だ! だったら間違いなく、鳳もすぐに来る!
「じゃあ、ラストスパートだ」




