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迷走記  作者: 法相
六章=決戦=
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六章四幕=特性=

三人称から一人称への修正と、加筆をしました。12月26日。

「だったらなおさら殺すのに遠慮なんていらねえなぁ……!」


 最初から遠慮などなかったが精神まで完全なる同一人物であるなら、なおさら殺すべきだった。

 思考が怒りに染まっていき、視界は赤い。

 たとえこれが罠であろうと挑発であろうと、動かない理由はなかった。


「落ち着きなさい、龍臥くん」


 だが、突き進もうとした俺を響さんは肩を掴んで止めた。


「……離してください」

「理由がどうであれ、怒りに身をまかせたらあっちの思う壺よ」

「わかってます。でも、進まなきゃ……殺せない」

「この……頑固者!」

「へぶし!?」


 思い切り頭を殴られ、思わずその場で膝をつく。


「いい? 私は落ち着きなさいって言ってるの。冷静さを欠くと勝てるものも勝てないわよ!」

「……すいません」


 頭に上りすぎていた血が下がったのかいくらか冷静になる。

 痛みがあるとは言え、少しだけ落ち着けた。とはいえこれが響さん以外の誰かでは止まったかというとそうでもないだろう。

 しかし、そんな俺たちを見て心底憎たらしそうに黄金は舌打ちした。


「ああ、くそ。邪魔をするなよ桂。怒りに身を任せた奴を殺す方が楽しいのに」


 嫌悪の感情を隠すことなく侮蔑の視線を向けるが、響さんはどこ吹く風とばかりに笑って返した。


「おあいにく様。あんたの思うように動く義理もないのよ、私は」

「……その、ありがとうございます」

「気にしないでいいのよ。私と君の仲なんだから」

「……あいも変わらず虫唾が走るね、桂。それに鳳も……実に目障りだ」

「俺からしても目障りだよ。お前のせいで響は……!」


 歯を食いしばりながら黄金を睨みつけ、彼女との最後の別れや思い出が脳裏をよぎる。

 桂響は誰かに疎まれていいはずの少女ではなかった。

 少なくとも、鳳龍臥にとってはそうであった。

 そんな彼女を汚し、あまつさえ自殺に追い込ませた黄金竹虎は間違いなく仇敵だった。

 しかし、黄金はそんな俺の思いとは裏腹に「バカが」と言い切った。


「あんな女の人生より僕の人生の方がよっぽど大事だったさ! お前のせいで僕がどんな目にあったか……! はらわたが煮えくりかえるようさ!」


 忌々しいと声高らかに叫び、剣を握り直し炎が感情と呼応するように激しく燃え盛った。


「は、俺がいなくなったあとにたいそう酷い目にでもあったようだな」


 対して俺も思ったままを口にして嫌悪感をあらわにする。

 容赦なんていらない。罪悪感も必要ない。こいつにぶつけるのは、生理的な嫌悪だけだ。


「うるさい! 捕まりこそしなかったが僕の人生はおじゃんだ! しかも交通事故で死んだなんて冗談じゃない! まったく、どうりで君を見たらイライラしたわけだ」

「クソみたいにむかつくのはこっちも一緒だ」


 互いに睨みつけ、殺気がぶつかる。

 周囲の戦闘の音すらも、俺にはもはやほとんど聞こえていない。


「……あんたみたいのを自己中心的っていうのよねぇ」


 呆れたようにぼやきつつ、響さんも刀を構え直し龍臥も向き直る。

 これは運命の悪戯というものなんだろう、と思う。本来ならもう会えないはずの人間に良くも悪くも出会えたのだから。

 そしてこうも考える。これは因縁を断ち切る機会だと。


(その結果、こいつを殺せるのであれば俺が死のうが問題ない)


 拳を思い切り手に叩きつけて気合を入れ直す。

 死なないからなんだ、いくつも能力があるからなんだ。前回と同じ思いを胸に抱く。

 そんなことは、関係ないのだ。

 鳳龍臥は黄金竹虎を絶対に殺す、そのことになんら変わりはないのだ。


「殺す。死ぬまで、何度だって殺してやる!」

「前回も似たようなことを言ってたね。やれるものならやってみみなよ、現実を教えてあげるからさぁ!」


 黄金の持つ剣に風が纏わりつき、猛烈な速さで突っ込む。

 その速さはまさに風の如く、素早かった。

 俺では視認はできても捉えることは困難だった。


「速さ対決なら、私の十八番よ!」


 しかし、その欠点は響さんが補ってくれた。

 彼女の能力もまた風を纏い、神速のごとき速さで駆け抜けることができる。

 そのトップスピードは今の黄金をも容易に捉えることができる。

 納刀されていた刀を勢いよく鞘から引き抜き、黄金の首へ向ける。

 その攻撃は剣によって防御されるも、僅かながら速度を落とすことに成功した。

 その瞬間を狙い、俺も最速で動いて抜き手を、響さんも再び自身の最速の居合をほんの一呼吸にも満たない時間で抜き放つ。

 完全に息の合った同時攻撃。それぞれが致命傷を狙っていた。


「温い!」

「「!?」」


 だが、黄金は必殺に対して確実に反応して攻撃を止めた。

 一瞬だけ動揺が走り、その瞬間を黄金は見逃さなかった。剣に炎が纏わり、圧倒的熱量を持った剣閃が振り抜かれた。

 咄嗟に防御をして、後ろへ跳ぶ。けれども完全には避けきれず、熱が肉をあぶった。


「あっつ!?」


 焼くと斬る、一度も味わったことのない攻撃は妙な不快感を覚えた。


「風に炎に雷……一体いくつ能力あるんだコイツ」

「教える義理はないよ」

「ごもっともで」

(でもそれよりも……)


 違和感があった。

 いや、違和感などではない。これは目に見えた変化だった。


「ち、口だけじゃないのね」

「響さん、こいつ……」

「どうしたの? なんか気がついたことがあるの?」

「はい。こいつ……さっきよりも、強くなってる」

「え?」


 俺は今回を含めて二回黄金と戦っている。そして二回小金が死んだのを目撃している。

 致命傷などではなく、絶命。

 そしてその死の淵から蘇った黄金は……間違いなく最初に殺す前よりも攻撃の重さや速さが向上していた。


「それ本当?」

「間違いないです。殺しても死なない、けれど殺せば強くなって生き返る」


 とんでもない反則級の能力だ。


「……どーりでテラサイトが強気なわけだわ。殺せば殺すほど強くなって蘇るとか……そりゃ勘違いして調子に乗るやつにもなるわ」

「まぁでも、引きませんよ、俺は」

「もちろん私だってそうよ」


 にぃ、と二人は口角を吊り上げる。


「……まだ笑う余裕があるんだね、君たち」


 本当に気に食わない。そう吐き捨てる。


「俺らは諦めが悪いんだよ」

「とりあえず、意地でも殺してやるから覚悟なさい」


 そう発して、俺たちは黄金に向かって突貫した。


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