六章三幕=繋がる因縁=
「おらぁああ!」
「くぅ……!」
全力の拳が黄金の剣の腹で受け止められ、そのまま切り払われる。
互いにダメージはない。強いて言うならば俺の服がわずかばかり破けたということだろうか。
互角、ではない。
やはり前回は油断が向こうにあったとはいえ、俺よりも実力は上らしい。
同じ悪魔憑きとは言え黄金はこの世界で幾度も戦いを積んでいてその経験がある。
対する俺は元の時代でやっていたと言えば喧嘩のようなもの。千代さんと戦った時も不意を突いた結果の勝利だ。
俺の戦力は普通の兵士基準で百人力ではあるかもしれないが、逆を言えば百人分でしかない。それを圧倒的に上回る数を出されれば持久戦で負ける。
ましてや目の前の奴は百人力どころではないだろう。
「何を考えているかは知らないが、この眼の借りは返させてもらう」
バチリ、と剣が光り振りかぶる。
とっさに足元を踏んで土の壁を出現させ、直後に雷が壁を破壊する。
そして破壊された壁の先からはすでに黄金が迫ってきていた。
「燃えて、焦げて苦しめ」
剣には炎がまとわりついており、膨大な熱を伴っていた。
『隙あり』
――背後から風が吹いた。
俺の顔を避け、神速の速さで黄金の頭を一本の刀が突き刺した。堅牢な頭蓋骨すらもきれいに貫通し、致命傷と一眼で見てわかった。
こんな神速の一撃は、彼女にしかできない。
「さすがです、響さん」
「もらったわよ」
そしてそのまま力任せに刀は横へ引き抜かれ、黄金の傷口からは脳味噌がこぼれ、血が溢れ出て、黄金の身体は横
に倒れた。
「龍臥くん、大丈夫だった?」
「もちろんです。響さんこそ無事でなによりです」
「私の持ち味は速さだからね。雑魚たちは風圧とかでまとめて倒したけど……こいつはそうもいかないみたいね」
うげぇ、といいながら視線を黄金に向ける。
奴の身体は以前と同じく修復を始めていた。それも今度は飛び散った脳味噌も奴の身体に戻っていき、その様子はまるで出来の悪いホラー映画のようだった。
「こいつ悪魔憑きとか人間じゃなくて物の怪の類じゃないかしら」
心底侮蔑を込めた視線を向けながら響さんは苛立っていた。
「それに関しては俺も同意見ですね」
この様子じゃ定番の首から上を斬り捨てて飛ばす、というのも通用しないだろう。しかも今度は両眼が健在となった。
再生を終えて立ち上がった黄金は首を回しながら「チッ」と舌打ちをすると俺たち二人に殺意の視線を向ける。
先ほどまでよりも重圧が違う、というか雰囲気が変わったようにも見える。
けれども奴が発した言葉に俺は驚愕を隠せなかった。
「やれやれ……なかなかえげつない殺し方をするね……『桂』ぁ」
「……なんでお前がその名前を知っている」
あり得ない。こいつは、あくまで外見もそっくりで同姓同名であり、俺の知る『黄金竹虎』とは別人のはずだ。
だというのにこの男は響さんを見て『桂』と呼んだ。
「なんで知っているかって? 今回復している際に思い出したからだよ。鳳。よくも僕の人生を壊してくれたな」
「……まさか、お前」
「そうだよ。僕は桂響なんて女を自殺させたくらいでお前に殴られた黄金竹虎だよ。正しくはその生まれ変わり、転生とでも言うべきだけどね」
チカリ、と視界が真っ赤に染まった。




