五章三幕=影の顔=
殿様による視点になります。
千代が調査を始めて約七時間。唐突に、音もなく口元を隠した本来の忍としての彼女の状態で現れる。
想定していた以上に早かったが、これも彼女が有能であることの証だ。頭領に無理を言って配置換えさせたが、それだけの価値はあった。
「殿、間者……いえ、内通者を特定しました」
「ご苦労。で、内通者はどこに?」
「現在、地下牢にて拘束しております。加えて主人様の指示で例の捕まえた男は内通者の顔を知らなかったので、直接連絡をとっていたのはさらに上の存在、黄金竹虎と推測します」
「ありがとう。それにしても、やはり有能だね千代」
「お褒めいただきありがとうございます。ですが、この身で招いた不始末でもあります。少しでも贖罪になればよいのですが……」
「十分だよ。なにせ……結果や過程はどうであれ君は蒼蘭を悲しませずにすんでるし、その上この手柄。僕としては褒賞をあげたいくらいだよ。なにか願い事はあるかい?」
「……できるのであれば、今後も主人様にお仕えすることをお許しいただければ」
「いいよ。ただたまには頭領達の手伝いもしてくれれば嬉しいかな」
「もちろんでございます! 殿、ありがとうございます!」
素晴らしいほどの速さでの土下座。角度や礼節もきっちりとした完璧な土下座だ。
やはり鳳くんが来てからいい方向に進んでいるようだ。本当に戦場になるような事態でなければもっと手放しに喜べるんだけど……こればかりは仕方ないか。たらればの話なんてものは、過去に遡れない人の身ではすぎた話だ。それにこう言う事態だからこそ、と考えれなくもないしね。
千代に下手人の名前を聞いて席を立たせ、ゆっくり首を鳴らしてから着替えに行く。
これから行うことは、少しばかり荒事であり根気のいる作業であり……粛清なのだから。
着替え終えて腰に刀を挿し、地下牢の方へと足を運ぶ。祖先では殿様がわざわざ出向くのはおかしいことと書物にはあったが、今は僕の治世だ。好きにさせてもらおう。
目的の地下牢につき、そこで椅子に座らされて縄を巻かれている男がいた。
男の名前は宮城。この城の門番を勤めていた男だ。
すでに多少は酷い目を見たのだろう、顔には痣があり血の跡もある。殺さない程度には痛めつけたんだろうな……
けれどここからは僕の仕事だ。一度深呼吸して宮城の元に近づく。
「やぁ宮城。気分はどうだい?」
「ひ……と、殿……」
「まぁまぁ、そんなに怯えなさんな。ねぇ宮城……なんで僕らを裏切ったのかな?」
宮城の顔から怯えの色が強くなる。心外だなぁ、これでも笑ってるつもりなんだけど。
それともなんだ、笑顔で話しかけてくること自体が怖いとでもいうのだろうか。
「まぁじっくりと話をしようか」
刀を抜き、足の指を一本切り落とす。
「〜〜〜〜〜!!??」
「知っていることを全部吐けば楽に殺す。喋らなければ……苦痛だけで生涯を終えるよ」
さて、少し長くなるが……
「裏切った以上は覚悟の上だろ? さぁこれからどうするかは君次第だよ」
「お、俺は勝ち目のない戦いなんかしたくないんだ! とのだってわかるでしょ!?」
「知るか」
もう一本、指を切り落とし悲鳴が聞こえる。
わかっていないようだからしっかりと自分の立場を把握させなければいけない。
もう末路は決まっていると言うのに、哀れだ。




