四章八幕=見物=
殿様視点のお話です。
「こりゃ、僕らが入るのはまだ早そうかな?」
仲睦まじげにしている三人の姿を見つつ苦笑する。
詳しいことはわからないけど、仲良くしていることはいいことだ。もうすぐ戦が始まるかもしれない状況でなければ素直にお祝いもできるところだが……残念ながらそうではない。
「困ったものだね」
「そう言うなよ大将。あの坊主が敵の大将の秘密を持ってきたんだ。もう少しくらい待ってやろうや」
背後にいる鉄華領最強の兵、紅龍はさっぱりとした笑顔で提案してくる。
どうでもいいけど、君は相変わらず奔放だよね。
「というか、あの三人見てるの楽しんでるでしょ」
「よくわかってるじゃねえか。ま、正しくは風峰の嬢ちゃんと鳳の関係てとこか。なんつーかよ、あの嬢ちゃんがああも喜怒哀楽はっきりさせてるのは珍しいもんだろ」
「そうかい?」
「そうだよ。この間鳳と初めてあった時や模擬戦の時のヤジの飛ばしといい、俺が知ってる風峰響とはちがったぜ? あの小娘、もっとむりくり感情を抑えめにしてた印象だな」
「そうでもないと思うけど。それ君が嫌われてるだけじゃないのかい?」
「大将もけっこう容赦ねえなぁオイ」
「事実でしょ」
純粋な感想であるとも。
とはいえ、だ。前よりも感情が豊かになっているのは違いないだろう。正しく言えば、上っ面の表情に感情がこもり始めたっといえばいいのかな。
かなり親しい間柄、それこそ蒼蘭や千代、今は旅に出ている肉親である雅くらいなものか。
僕も殿様ではあるが、蒼蘭の父親として友人である彼女とは比較的近しい距離で接していたからけっこう雑に扱われている。
でも本当に幼い頃からの彼女を見てきているから、こういう変化は望ましい限りだ。
しかしそれはそれとして……
「若いっていいねぇ。気が浮いていないからとはいえまさか接吻とは」
「忍者娘はまだしも風峰の嬢ちゃんは意外だったな。おかげさまでその様子が気になる気になる」
「そういう君も嫁さんをもらう気はないのかい?」
「ねえな。俺は今のままの方が気楽だ」
「そっか。それならそれでいいけど。先代辺りならやかましく言ってそうだけどね。ま、今は僕の統治だし、その辺の基準は自分が幸せになれるかどうかで決めればいいさ」
「そりゃ助かる。ま、鳳は大変そうだが」
違いない、と思わず笑ってしまう。
先代くらいだったら接吻しようものなら婚約騒ぎに発展してもなんらおかしくはない。これをネタにからかうこともできなくはないが、そういうのは落ち着いた時に、覚えていたらでいいのだ。
それからあの三人が泣き止むまで待つことと相なった。




